私は普段、感情について説明するとき、感情の核となる意味をお伝えしています。しかし、少し感情の深淵を覗いてみると、その深さや複雑性というものが垣間見えてきます。それは、畢竟、私たち人間という知的生物の複雑さに通じています。
本日は、私たちの複雑さを示す事例を嫌悪という感情から見てみたいと思います。
嫌悪は「不快なモノ」を原因にして生じ、「不快なモノ」を排除するという機能のために存在している感情です。これが嫌悪の核の意味です。しかしより詳細に見ると、嫌悪には5つのステップがあることが知られています。以下の表を見ながら説明します。
0段階~1段階は最も根源的な嫌悪です。赤ちゃんが苦いものを口にすると「べ~」って吐き出しますよね。あれです。動物もそうですね、ネコなんて不快な匂いなどに鼻にしわを寄せ、嫌悪の表情をしているのをよく目にします。もちろん私たち大人も、毒性の物を食べれば、身体が勝手に反応して吐き出してくれます。
2段階は動物と人間の間に位置する嫌悪ですね。動物は今・ここの死を避けますが、私たちヒトは今・ここだけでなくずっと先の死をも忌み嫌う傾向にあります。
3段階~4段階はほぼ人間特有の嫌悪です(いわゆる社会的動物と呼ばれる動物は、この段階でも嫌悪を感じている可能性があります)。この段階に来ると文化差や個人差、年代差が目立ちます。どんな集団を排除するか?何を道徳とし、何を秩序違反とするか?
動物と人間とを隔てる壁は、何に感情的に反応するようになるのか、というところにあるのかも知れません。
何にどんな感情を感じるのか、奥深い世界です。
清水建二
参考文献
Rozin, P., Haidt, J., & McCauley, C. R. (2008). Disgust. In M. Lewis, J. M. Haviland -Jones & L. F. Barrett (Eds.), Handbook of emotions, 3rd ed. (pp. 757-776). New York: Guilford Press.