買い物をしたり、食事をしたりする時に、お客さまアンケートの記入をお願いされることがあります。こうしたアンケートに記入するとき その質問内容がわからなかったり、質問自体にそんなに真剣に答えていなかったり、購入時の記憶があいまいで答えられなかったりするのは私だけでしょうか?また商品購入に関する様々なこと、例えば商品の購入動機が店に入る前と入った後とで変わっていたり、自分の本当の動機に自分自身すら気づいていないこともあります。
ハーバード大学経営大学大学院のJerry Zaltman教授によると、自身の思考や感情のうち自覚しているものはたったの5%で、無自覚のものが95%なのだそうです。
なるほど。私が質問形式のアンケートに正確に答えられないのも納得です。
それでは、その無自覚の95%の声まで耳を傾けられる方法はないのでしょうか?む、む、無自覚、無自覚、、無意識?、無意識、、、!無意識の表情!お客さんの微表情を計測すれば良いのではないだろうか!
そんな研究はあるのだろうか。そんな研究があるのです。
サンフランシスコ州立大学のDavid Matsumoto教授らの研究チームが、商品に関するインタビューを受けている時に見せる消費者の表情とその時の感情状態を計測しました。
手順としては、100人以上の消費者に、日用品、その商品のコンセプト・使用法・テレビコマーシャルについてインタビューを行い、インタビュー応答時のそれぞれの顔を顔面動作符号化システム(FACS: Facial Action Coding System)で分析します。以下が分析結果です(矢印は清水の感想です)。
インタビュー応答時の消費者の表情は…
・ほとんどの場合、真顔に近いか、もしくは緩やかな程度である。
→日用品を買っている時は、基本真顔ですからね。笑っている人がいたら逆に怖いですよね。
・消費者の表情の半分以上が「嫌悪」「軽蔑」「怒り」の微表情(0.5秒以下で表れて消える微妙な表情)を見せている。
→おー、基本的にみなさん機嫌が悪いのですね。日用品の購入は「幸福」とは結びつかないのでしょうか。
・心からの笑いが起こることはほぼ皆無で、愛想笑いもあまり観察されない。
→それに比べて日用品セールス担当の方々はいつもニコニコ顔ですよね。毎日ご苦労様です。これから私も商品を買うときは、FACSで鍛えた表情筋を使って笑います。いや、もうちょっとだけ愛想笑いを増やします。
・消費者の口にすることと表情は4割弱が一致していない。
→なるほど。不機嫌な表情を微妙には出すも、さすがに直接言葉にはしないのですね。
この研究結果を見ると、質問形式のアンケートよりもずっと多くの本音が、お客さんの顔そのものからわかるのだな、と感心します。笑顔を認識して自動的にシャッターが落ちるタイプのデジカメがありますが、あの技術を応用してパソコンなどに取り付けて、消費者の表情・感情に応じてパソコンの画面が自動的にカスタマイズされるものなんか出来たら面白いですね。
清水建二
参考文献
ジェラルド・ザルトマン著 藤川佳則訳 阿久津聡訳(2005)『心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす』ダイヤモンド社
Matsumoto, D., Hwang, H. S., Harrington, N., Olsen, R., & King, M. (2011). Facial behaviors and emotional reactions in consumer research. Acta de Investigacion Psicologica (Psychological Research Records), 1(3), 441-453