夫婦喧嘩。どんなに愛し合って結婚した二人であっても、時に喧嘩をしてしまうのはなかなか避けられません。喧嘩をすることは気分の良いものではありませんが、それを乗り越えることで以前より二人の絆が強くなり、喧嘩の原因となった問題の解決の糸口が生み出されることもあると思います。
しかし場合によって事態はさらなる悪化を見せ、離婚にまで発展してしまうこともあり得ます。それでは、どんな喧嘩が「普通」で、どんな喧嘩が離婚にまで至る「危険性」を孕んでいるのでしょうか?
夫婦関係や結婚生活の研究で著名なJohn Gottmanは、夫婦喧嘩の際に「軽蔑(特に男性)」や「嫌悪(特に女性)」の表情が観察されると、離婚につながる可能性が高まることを実証しています。
それはなぜか?Gottmanは、夫婦喧嘩の時に配偶者が「怒り」を見せてもまだ安全だと言います。「怒り」を見せることは激しい感情を表出する一形態に過ぎないため、喧嘩という状況においてそれは「普通」の行為だと考えられるからだそうです。しかし、相手を見下す感情である「軽蔑」や相手を拒絶する感情である「嫌悪」は、愛情にとって必要不可欠な肯定的感情や思いやりの感情を阻害してしまい、離婚を予測する指標になると説明しています。
結婚とは何かと問われれば、互いを絶妙な均衡状態で尊敬し合う関係性のように思えます。自分本位の自我と言うものを相手の存在が中和してくれるのだと思います。
愛情とは何かと問われれば、究極の「受け入れ」だと思えます。他者の舌が自分の口に入ってくるなんて想像するだけで「嫌悪」感が生じます。しかし愛する人の行為なら受け入れることが出来るでしょう。「嫌悪」は拒絶感、愛情がその拒絶を受容に変えるのではないでしょうか。
離婚とは、「軽蔑」によって敬意の均衡状態が崩れ、「嫌悪」によって受容が拒絶に変わる、そんな現象なのでしょうか。
では最後に離婚を未然に防ぐ方法を考えてみます。もちろん離婚の要因となるものは複雑に絡み合い、単純な解決法といったものはありません。しかし、表情学からは以下の二段構えのアプローチをお勧めさせて頂けます。
①普段から配偶者の表情をよく見る
相手の感情の変化、表情の癖がよくわかるようになり、相手の気持ちの変化に敏感になれます。相手の気持ちの変化を察することが出来れば、その場に適切な言動をとれる可能性が高まります。さらに愛する人が自分をよく見てくれているという状態は、自分の存在を認めてくれているということを意味し、気持ちの良いものです。したがって争いが起きにくい状態を維持できます。
②夫婦喧嘩の際に相手の顔に浮かぶ「軽蔑」や「嫌悪」の表情に要注意
夫婦喧嘩の時に「軽蔑」「嫌悪」が相手の顔に表れたら、相手の言い分をまず受け入れましょう。それがどんなに理不尽でもまずは受け入れましょう。そして謝罪します。いかに正当なものであろうとここで自己の主張を通してしまったら、コミュニケーションは断絶してしまいます。そうすれば二人の関係に傷がついたままとなり、離婚へのカウントダウンが始まってしまいます。
離婚率が高まる昨今。夫婦間の絆を保ち、安定した家庭を維持するには、表情を観察するスキルがますます重要性を帯びてくるのではないでしょうか。
清水建二
参考文献
ジョン・M・ゴットマン/ナン・シルバー著 松浦秀明訳(2007)『結婚生活を成功させる七つの原則』第三文明社
Carrere, S.; Buehlman, K. T., Gottman, J. M., Coan, J. A., & Ruckstuhl, L. (2000). "Predicting marital stability and divorce in newlywed couples". Journal of Family Psychology 14 (1): 42–58.