微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

微表情に対する批判への批判

 

微表情の実用性に対して、肯定的・否定的なものと様々あります。本日は否定的な2つの意見を取り上げ、その妥当性について考えてみたいと思います。

 

一般の方々及び法の執行官から寄せられるよくある直感的な批判は、

 

「0.2秒の反応など目視でキャッチすることなどできない。」

 

というものです。

 

この直感は誤解です。微表情検知用のトレーニングビデオを用いた実験から、たった1時間の検知トレーニングをすることで微表情の検知率が40%から80%に向上し、この能力は2~3週間維持される、ということがわかっています。微表情に限らず、トレーニングなしに向上する能力など何もありません。

 

次に科学研究から提示された微表情に対する批判があります。それは、

 

「微表情は、抑制された感情を検知するのに適した手がかりではない。それは感情が抑制されても微表情が生じることは極めてまれだからである。」

 

というものです。

 

この研究から微表情の脆弱性を指摘することは出来ません。この研究の方法論と結果をまとめると次の通りとなります。

 

「実験参加者に様々な感情を喚起させるような写真を見せ、そこから湧き起こってくる感情を抑制してもらった。その結果、全697の表情パターンのうち完全な微表情は1つもなく、部分的な微表情ですら、全体の2%しかなかったことがわった。」

 

この研究の問題点を一言で指摘すると、

 

感情を喚起させる目的に用意された写真が、実験参加者にとって微表情を表出させるほどに十分な刺激にはならなかった可能性が高い。

 

と言えます。

 

つまり問題なのは、「感情を喚起させるような写真」を使って微表情の発生頻度を計測したことです。微表情は1960年代に自殺願望者の顔から漏洩する一瞬の悲しみ表情から発見されました。また近年の研究では、ウソをついている犯罪者の表情に特定の微表情が表れる傾向にあることが見出されています。自殺願望者の患者が自殺の意図を隠し、主治医に退院許可を求めるときの感情の抑制度合い、あるいは、法を犯した犯罪者が刑事に本心を読みとられまいとしているときの感情の抑制度合い。これらの感情の抑制度合いと感情を喚起させるような写真から湧き起こる感情の抑制度合いが、なぜ同じと言えるのでしょうか。

 

微表情は、抑制された感情をキャッチするのに有効なツールです。しかし、トレーニングなしに、またどんな状況下だと効果的なのかを知らずに使おうとすれば、当然その有効性は保てないのです。

 

 

清水建二

参考文献

Matsumoto, D. & Hwang, H. S. (2011). Evidence for training the ability to read microexpressions of emotion. Motivation and Emotion, 35(2), 181-191.

Porter, S., & ten Brinke, L. (2008). Reading between the lies: Identifying concealed and falsified emotions in universal facial expressions. Psychological Science, 19(5), 508-514.

犯罪者特有の顔というものはあるのだろうか?

 

 犯罪者の顔に特徴はあるのだろうか?

 

有名な研究として古くは、1864年、犯罪学の父とされるチェーザレ・ロンブローゾによって犯罪者の顔の特徴が見出されました。ロンブローゾは、遺伝的な影響により将来犯罪者になるものは宿命付けられている、という結論をしましたが、多くの批判が巻き起こることになります。そして後にこの研究の妥当性は低かったことが証明されます。

 

それでは、犯罪者に特徴的な顔とは、やはり存在しないのでしょうか?

 

2016年11月、最先端のコンピューターによる画像認識と機械学習を通じて、犯罪者と非犯罪者との顔の分別に成功したという研究が発表されました。

 

以下の顔の中から、犯罪者を推測してみて下さい。

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研究の結果、犯罪者の顔の特徴とは、「口が小さく、上唇が曲がり、両目の間隔が狭い顔」ということがわかりました。上の画像からわかりますでしょうか?上段のa群が犯罪者です。下段b群が非犯罪者です。もう少し詳しく書いてみましょう。

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顔の特徴として、犯罪者は非犯罪者と比べて鼻の先と唇の両端を結ぶ角度(θ)が平均19.6%小さく、上唇の曲率(ρ)が平均23.4%大きい。また、左右の目頭の間隔(d)は犯罪者が5.6%狭かったということがわかりました。

 

さらに興味深い点があります。この平均○○%小さい・大きいという数字のバラツキが非犯罪者に比べ犯罪者の方が大きいことが見出されています。つまり、犯罪者の方が非犯罪者に比べて顔の特徴にバラエティーがある、ということです。

 

次の画像はいかがでしょうか?犯罪者の顔はどれでしょうか? 

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正解は、abcdが犯罪者の顔のサブタイプで、efgが非犯罪者の顔のサブタイプです。非犯罪者の方がバリュエーションが少ないようです。

 

私の周りに「明瞭に説明できないが見ただけで犯罪者がわかる」という方がおりましたが、もしかすると、普通の顔(=非犯罪者)ではない顔の特徴を無意識にキャッチしているのかも知れません。

 

なおこの研究は中国人の方のみを対象に実験を行ったため、本研究で見出された、いわゆる犯罪者顔は万国共通の特徴なのかどうかはわかりません。

 

そう言えば、我が国、日本にもこんなカメラが導入され始めています。

 

 

今回ご紹介した研究と同じようなロジックで危険人物を検知しているのでしょうか?

注目のテクノロジーです。

 

 

清水建二

参考文献

Automated Inference on Criminality Using Face Images (Xiaolin Wu, McMaster Univ. and Xi Zhang, Shanghai Jiao Tong Univ. Nov. 21, 2016).

目の動きからウソを見抜くことはできるのか?―NLP理論の検証編

 

最初にこちらの映像をご覧ください。

元FBI捜査官がウソの様々なサインについて説明しています。

本日はその中から目の動きに注目してみたいと思います。

 

目の動きからウソを見抜くことはできるのでしょうか?目の動きから他者のウソを見抜く技術として、NLP神経言語プログラミング)が提唱する理論が有名です。

 

NLPの理論によると、右利きの人が、右上を見上げることは想像している状態を意味し、左上を見上げることは過去の記憶を思い出している状態を意味すると説明しています。元々のNLPの理論では、右上を見上げる=想像している状態が、人がウソをついている状態であるという見解をしているわけではないのですが、多くのNLPの実践者がこの考え方からウソを見抜くことが出来ると提唱しています。

 

NLPの実践者がウソのシグナルとして提唱している考えは、右上=想像=ウソ・左上=記憶=真実というものです。

 

果たしてこのシグナルからウソを見抜くことが出来るのでしょうか?このことを検証した3つの実験から結論を言いますと…

 

ウソを見抜くことは出来ない

 

ということがわかりました。どんな実験かご紹介します。

 

実験1では、実験参加者を「ウソをつく」人と「真実を話す」人に分け、それぞれにある事柄についてウソか真実かを話してもらいます。その結果、ウソを話す人は右上を見て、真実を話す人は左上を見る、という関係は見出されませんでした。

 

実験2では、NLP理論を学んだ人と何も学んでいない人に、話をしている人がウソをついているか真実を話しているかを目の動きを手がかりに判断してもらいます。その結果、NLP理論を学んだ人と何も学んでいない人との間には、ウソを見抜く精度に差がないことがわかりました。

 

実験3では、自分の子どもがいなくなってしまい情報提供を呼びかけている親の映像を多数用意します。一方の映像は、本当に子どもが第三者に誘拐もしくは殺害されてしまった親の映像です。もう一方の映像は、自らの手で子どもを殺害した親の映像です。それぞれの親が子どもがいなくなる前の状況や情報提供を呼びかけているときの目の動きが計測されました。その結果、右上=ウソ、左上=真実という関係は見出されませんでした。

 

これらの検証結果から、NLPの理論に則った方法では、目の動きからウソを見抜くことは出来ない、という結論になります。

 

学んだことを何でもかんでも批判的に見る姿勢は精神衛生上よくないと思います。しかし自分がよって立つ理論や考え方、信念、もっと大きな視点で言えば、世間の常識や当たり前だと考えられている知見に対して、時に立ち止ってその妥当性を考えてみる、健全な批判精神を持つということはとても大切だと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Wiseman, R., Watt, C., ten Brinke, L., Porter, S., Couper, S-L., & Rankin, C. (2012). The eyes don’t have it: Lie detection and neuro-linguistic programming. PLoS ONE, 7, 1-5. doi: 10.1371/journal.pone.0040259.

私が目指す科学と経験のハイブリッドへの道

 

空気を読むを科学する研究所が設立したのは、2014年4月です。設立当初から弊社、もとい私が目指しているところは、「科学と経験のハイブリッド」です。

 

私は大学に4年、大学院に4年いました。その間、ずっと思っていたことは、

 

「科学知見と現実世界とはどうつながっているのだろうか?」

「科学知見は現実世界でどう活かせるのだろうか?」

 

ということです。

 

あまりに抽象化された科学の世界から見た現実は、複雑すぎて私には科学がどう現実、もっと言えば私の生活に活かすことができるのかわかりませんでした。

 

もちろん、科学には純粋に科学者の内発的な問いを扱う基礎科学と現実生活に転用可能な応用科学があることは知っていました。

 

しかし、リアルな世界に生きていない私(=いわゆる、社会を知らない一学生だった自分)にとって、応用科学の知見もどのように社会に還元され、応用科学の知見で自分の生活にいかにコントロールを加えることができるのかについて、実感が持てなかったのです。

 

一方で、学部生当時から自己啓発系の書籍をむさぼり読み、その間、ずっと思っていたことは(現在も経験者の方々のお話を聞く度に思うことですが)、

 

「個々人の経験はどの範囲まで再現可能なのだろうか?」

「個々人の経験則から得られた知見はどれほど自分に当てはまるのだろうか?」

 

ということです。

 

個々人の経験から語られる言葉を見聞きすると、その血が通った想いに、心が躍り出すような興奮を覚え、物語を見聞きするような心地よい実感に浸ることが出来ます。しかし、個々人の経験則は、統計的に優位な違いが出るほど、信用できるルールなのだろうか?カリスマ性を持つ人物だからこそ上手く行ったストーリーに過ぎないのではないだろうか?と自分の理性的な思考が感動に邪魔を入れるのでした。

 

そんなこんなで(この6文字には数年間の試行錯誤があるのですが)、科学知見に経験則を重ねてみる、もしくは経験則を科学的に検証する、ということを自分の専門分野においてライフワークにしようと思い、空気を読むを科学する研究所を設立したのです。

 

空気研での活動を通じて、私は人の心理を読む、という科学知見がいかに現実世界、日常やビジネスの世界に応用可能かを様々な観点から考えています。科学と経験のハイブリッドを掲げ、将来的には科学者と実務家のプラットホームのような場を作ることができればな、という構想を夢見ている今日この頃です。

 

 

清水建二

マクロ表情・微表情・微細表情の違い

 

表情の大きな枠組みとして、マクロ表情・微表情・微細表情という言葉があります。本日は、これらの言葉の定義をご紹介したいと思います。

 

マクロ表情(macro expressions)とは、日常的なやり取りで目にする表情で、0.5秒から4秒ほど顔に表れます。

 

微表情(micro expressions)とは、私たちが意識的もしくは無意識的に感情を隠したり、抑制しようとするときに表れる表情で、0.5秒以下しか顔に表れません(清水注:研究によっては、0.2秒以下と定義される場合あり)。また微表情が表れるときは、感情に関わる全ての表情筋の動きを伴って顔に表れます。例えば、「怒り」感情は、「眉が中央に引き寄せられる」+「上まぶたが引き上げられる」+「下まぶたに力が入れられる」+「唇が上下からプレスされる」というコンビネーションでマクロ表情として表れますが、微表情の場合、これらすべての表情筋の動きが同時に、しかも瞬時に顔に表れては消え去るのです。

 

微細表情(subtle expressions)とは、刺激に対する感情の反応が弱いとき、もしくは感情を感じ始めたとき生じる表情で、顔に表れている時間は問いません。また微細表情は、感情に関わる部分的な表情筋の動きを伴って顔に表れます。先の「怒り」感情を例にすると、「眉が中央に引き寄せられる」動きだけ、もしくは「唇が上下からプレスされる」動きだけが、微細表情として表れるのです。顔に生じている時間は、微表情のように一瞬の場合もあれば、数秒間続く場合もあります。

 

以上のような定義付けがなされています。

 

学術論文でも内容をよく読むと定義上は微細表情なのに、微表情と言っていたり、部分的な微表情と呼んでいたりしていますので、論文を読むときや厳密な分析をするときは、誤解が生じないように、定義上の違いをしっかり押さえておくことが大切です。

 

 

清水建二

参考文献

http://www.humintell.com/macroexpressions-microexpressions-and-subtle-expressions/

http://www.humintell.com/2009/09/subtle-expressions-key-to-detecting-deception/

水曜エンタ「目撃!奇跡の特殊能力~世界を救うチカラSP~」のこぼれ話

 

16日(水)放送(テレビ東京)の水曜エンタ「目撃!奇跡の特殊能力~世界を救うチカラSP~」をご覧になられた方おりますでしょうか?微表情に関するコーナーの制作協力をさせて頂きました。

 

番組制作において私は、制作スタッフの方々に微表情に関する基礎知識をレクチャーさせて頂いたり、取材先の提案や紹介、お取次ぎなどをさせて頂いておりました。

 

制作の過程で様々な紆余曲折がありましたが、スタッフの方々の情熱と工夫で面白い番組が出来たのだな~としみじみ思わせて頂いております。一つの番組を作るのは本当に大変だけど「アツい」仕事なのですね。

 

本日のブログでは、微表情コーナーのこぼれ話をしたいと思います。

 

ディビッド・マツモト博士が登場しましたね。日本では、Lie to meや邦訳された書籍の関係で微表情と言えば、ポール・エクマン博士の名前が度々登場しますが、マツモト博士も世界的には超有名人です。現在、微表情の研究では最高峰レベルの研究者と言えるでしょう。

 

下記のプロフィール、特に論文欄を見て頂ければ、その研究数と発見の数々に圧倒されます。

http://www.davidmatsumoto.com/

 

 マツモト博士は、元々エクマン博士の教え子です。エクマン博士と共同研究も多数行っており、さらに日本人の微表情研究の第一人者、工藤力先生とも研究をしていた過去があります。

 

現在は、大学で研究や教鞭を執る傍らHumintell(http://www.humintell.com/)という会社を経営し、FBIやCIA、インターポールなどの法の執行機関に捜査協力をしています。

 

番組内では、小保方さんと舛添さんの微表情がマツモト博士によって分析されていましたね。私も久々にマツモト博士の分析を見ることができ、非常に興味深く、大いに学ぶところがありました。

 

皆様に注目して頂きたいところは、マツモト博士は、小保方さんに関しては、彼女の発言にウソはないと言っていますが、彼女の発言内容が真実かそうでないかは明言しておりません。舛添さんに関しては、ウソか本当か何も名言しておりません。

 

それもそのはず…

 

微表情とは、ウソをダイレクトに検知する技術ではなく、言葉とのズレなどから感情のブレ=深堀質問・捜査ポイントを発見し、効率的に取調べや情報収集をする技術です。だから微表情の有無からウソの判定が即座に出来るわけではないのです(ウソをついていない、もしくはウソをついている自覚がない人からは、当然、感情のブレである微表情は検出されません)。

 

とは言え、この質問ポイントを明確にする微表情の技術は、とても有益なため、法の執行機関などで広く使われているのです。

 

番組の終わりに(微)表情を読みとるカメラが登場しましたね。(株)アロバさんが扱っている商品で、すでに実用化されています。ご興味のある方は、アロバさんに問い合わせて見て下さい。様々な用途に「へ~こんな使い方が出来るんだ!」という驚きがあると思います。

 

(株)アロバさんのHP

http://aroba.jp/

 

 最後に宣伝です!

微表情を学びたい方!必見!!

弊社空気を読むを科学する研究所では、微表情セミナーをさせて頂いております。今年開催のセミナーは…

 

①第11回ネゴシエーション研究フォーラム 2016年11月19日開催

清水建二氏講演「交渉で勝つための空気を読む技術 ~微表情から察する相手のホンネ」

http://www.transagent.co.jp/lecture/negoforum/1975/

➡今日だ!ドタ参出来るのでしょうか??

 

②「『微表情』から心理を読み取り、ビジネスへ活かす」(12月6日)講師:清水建二氏

https://www2.rri.co.jp/seminar/tokyo.html

➡リンクから12月開催のセミナー見てみて下さい。りそな総研の会員さんでなくても、清水からの紹介(もしくは、空気を読むを科学する研究所HP経由で見た)と言うと会員価格で受講できるそうです。

 

微表情が織りなす感情世界を体感されたい方は、是非お越しくださいませ。

 

 

清水建二