万国共通の7表情と準万国共通の11表情というものがあります。万国共通の表情、つまり、ある感情を抱くと、いつでも、どこでも、誰にでも、同じ表情筋の動きが伴われてその感情が顔に発現するという現象のことです。
ダーウィン以降の150年にわたる表情研究により、現在では、幸福・軽蔑・嫌悪・怒り・悲しみ・恐怖・驚きという7つの表情が全ての人の顔に同じように表れることがわかっています。とりわけ、生まれてから一度も目の見えたことがない盲目の方々も私たちと同じ表情をするという観察研究もあり、注目に値します。
さて、この7表情以外の万国共通の表情を探る研究が進められており、羞恥、恥、罪悪感、畏れ、誇り…などが研究されています。現在、11の表情がおそらく万国共通なのではないかと考えられています。
そのような中、2016年に発表された最新の研究で愉快、納得、未知、感傷的、ひらめきの表情とはどういうものか?という探索的な研究がなされ、新たな万国共通な表情の可能性が模索されています。
愉快、納得、未知、感傷的、ひらめき感情が喚起されるような映像が注意深く選ばれ、それを実験参加者に観てもらいます。各々の映像を観ている実験参加者の表情の動きが計測されます。その結果、それぞれの表情について以下の動きが顕著に観察されました。
愉快…頬が引き上げられる+口角が引き上げられる
➡いわゆる「ドゥシェンヌ・スマイル」というものです。満面の笑み、という表現の方がわかりやすいでしょうか。愉快表情は、万国共通の幸福表情と同じようです。
納得…眉の外側が引き上げられる+まぶたが上に引き上げられる
未知…眉の外側が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる+まぶたが上に引き上げられる
➡「眉が引き上げられる」「まぶたが上に引き上げられる」という動きは情報検索に関わる顔の動きです。納得と未知の表情に共通しています。両者の表情の違いは、「眉が中央に引き寄せられる動き」が顕著か否かということのようです。「眉が中央に引き寄せられる」とは熟考を意味します。納得した場合、もう熟考状態から解放されているため、この動きがないのだと思います。一方、未知の場合、自分の知らない情報が目下、伝えられている状態で既知に移行する前の段階です。既知に向かうプロセスにおいて「眉が中央に引き寄せられる動き」という熟考シグナルが表れるのだと思われます。
感傷的…眉の内側が引き上げられる+口角が引き上げられる+唇が口の中に巻き込まれる
➡「眉の内側が引き上げられる」は悲しみに関連する動きで、後者2つの動きは併せて、スマイルコントロールです。なぜスマイルが起きたのか?コントロールされる必要があるのかは謎です。
ひらめき…眉が中央に引き寄せられる+口角が引き上げられる+唇が上下に離れる+まぶたが閉じられる
➡普通の驚きとは全然違う表情ですね。なぜこのような表情になるのでしょうか?色々理由付け出来なくもないのですが、総体的に言って謎です。
いかがでしょうか?何となくそんな表情するかも、と言った感じでしょうか。
果たしてこれらの表情は万国共通表情のリスト入りするのか・否か!!
今後の研究蓄積を待ちたいと思います。
清水建二
参考文献
McDuff. Discovering facial expressions for states of amused, persuaded, informed, sentimental and inspired. ICMI 2016 Proceedings of the 18th ACM International Conference on Multimodal Interaction. Pages 71-75.Tokyo, Japan November 12 - 16, 2016. ACM New York, NY, USA ©2016. table of contents ISBN: 978-1-4503-4556-9 doi>10.1145/2993148.2993192.