宿題に取り組む子どもに、
「AI、使ってもいい?」
と聞かれたことはあるでしょうか。
全国の小学3年生から小学6年生とその保護者
1,032組を対象にしたベネッセコーポレーションの2025年調査では、
生成AIを利用している小学3〜6年生の約6割が、
「分からない時にまずAIに聞く」と回答しています。
生成AIは、子どもにとっても身近な相談相手になりつつあります。
保護者や先生に質問するのではなく、
「AIに聞くからいいや」「AIに聞くからいいです」
と思う子どもとどう接したらよいでしょうか?
具体的な場面から考えてみましょう。
夏休みの宿題として、読書感想文が出されました。
子ども:何を書けばいいかわからない。何も感想が出てこない。
親:本、ちゃんと読んだの?
子ども:ちゃんと読んだよ。
親:もう一度、読んでみなさい。
子ども:……。
この「……」のとき、子どもの唇に、僅かな力みが一瞬だけ浮かんだとします。
この子どもに、どんな言葉をかけるでしょうか。
このまま放置していたら、子どもは、
「AIに聞いちゃおう」「AIに書いてもらおう」
と思ってしまうかも知れません。
子どもの気持ちを受け止め、自身の体験を語る
生成AIは、答えを返すことはできます。
しかし、目の前の子どもの表情の変化に気づき、
その反応を受けて、こちらの言葉や態度を変えることはできません。
身体を持つ人間同士だからこそ、互いに反応し合いながら、
気持ちを受け止め、考える方向へ導くことができます。
唇の僅かな力みは、怒りや不満を示す微表情である可能性があります。
「ちゃんと読んだよ!」「読んだのに、わからないんだよ!」
そう声を大にして訴えたい気持ちが、表情に表れているものと推測します。
このとき大切なのは、まず子どもの言葉を疑うのではなく、気持ちを受け止めることです。
「疑うように聞こえたらごめんね。ちゃんと読んだのよね」
「読んだのに書けないのは、つらいよね」
このように、まずは子どもの立場に立って言葉を返します。
そのうえで、ご自身が子ども時代に読書感想文で苦労した経験や、
どうやって書いたかという工夫を伝えるとよいでしょう。
やり方のコツを少し教えるのも有効です。
たとえば、本のいくつかの場面を一緒に読み返しながら、
場面ごとに子どもがどんな気持ちになったかを尋ねます。
「この場面、どう思った?」
「悲しかった? 怒った? それとも、少し安心した?」
「どうしてそう思ったの?」
同じ場面を読んでも、抱く感情は子どもによって違います。
そして、なぜその感情を抱いたのかを一緒に深めていく。
この繰り返しによって、その子だけの感想文が少しずつ形になっていきます。
生成AIは子どもの自己肯定感を低下させるか?
もちろん、子どもが
「どうしてAIを使っちゃいけないの?」
と聞くこともあるでしょう。
適切な使い方を示せるなら、生成AIを使うこと自体は否定しなくてもよいと思います。
ただし、AIに丸投げしてしまうことの危険性は、きちんと説明する必要があります。
AIの回答には誤りが含まれることがあります。いわゆるハルシネーションの問題です。
しかし、私がより根源的に問題だと感じるのは、子どもの記憶や達成感、
自己肯定感に関わることです。
Gardellaら(2026)の研究では、AIを使うと作業は速く進む一方で、
学習内容が記憶に残りにくくなる可能性が示されています。
この研究は、大学生のプログラミング課題を対象にしたものです。
ですから、小学生の読書感想文にそのまま当てはめることはできません。
それでも、AIに答えを出してもらうことで、考える過程や
試行錯誤の経験が薄くなる可能性は十分に考えられます。
AIに宿題をさせてしまうと、自分の記憶に残らない。
「自分で考えて、書き上げた」という達成感が得られない。
自己肯定感を積み上げる機会を失ってしまう。
そんなことが起こり得るのではないでしょうか。
子どもが本当に言いたかったのは、
「ちゃんと読んだよ」「読んだのに、わからないんだよ」
ということ。
その気持ちを受け止めること。
大人自身の経験を通じて、困難さに共感すること。
同時に、「楽をしたい」「苦痛から逃れたい」という気持ちに安易に流されないこと。
AIを禁止するかどうかだけが問題なのではありません。
子どもがつまずいたとき、AIに向かう前に、人間である大人がどのように関わるか。
そこに、これからの教育・養護のコミュニケーションの大切な役割があると思います。
参考文献
ベネッセコーポレーション(2025)「ベネッセ『生成AIの利用に関する意識調査』小学生の『生成AI』認知率74.7%、2023年から約26ポイント上昇」2025年11月21日。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001417.000000120.html
Gardella, N., Prather, J., Leinonen, J., Denny, P., Pettit, R., & Riggs, S. L. (2026). Fast and forgettable: A controlled study of novices’ performance, learning, workload, and emotion in AI-assisted and human pair programming paradigms [Preprint]. arXiv. https://doi.org/10.48550/arXiv.2604.18538