嘘を見抜くということについて、私の考えを記しておきたいと思います。
「嘘のサインから嘘を見抜く」という言葉をよく見聞きします。
わかりやすい表現ゆえ、私も便宜上、使わないことはないのですが、
嘘のサインという言葉は、廃止した方がよいかも知れないと考えています。
なぜなら、
嘘のサインを根拠に嘘を見抜こうとすると間違える可能性が高まるからです。
嘘のサインとは、科学実験において、
嘘をつく多数の人と正直な話をする多数の人の言動を比べたとき、
正直な話をする人に比べ、嘘をつく人に、平均的に、
多く、あるいは少なく見られる言動のことを言います。
正直な人もする嘘のサイン
つまり、
ピノキオの鼻のような絶対的な手がかりではなく、
正直集団と嘘集団の平均差です。
裏を返せば、嘘のサインと呼ばれる言動を、
嘘をつく人に比べれば少数であるものの、正直な話をする人もとる、ということです。
具体的な嘘のサインから考えてみましょう。
例えば、髪、額、顔、アゴ、その他身体の一部を触る
マニピュレーター(セルフアダプター)と呼ばれるボディーランゲージがあります。
多くの研究から感情の波をなだめようとする動作であることがわかっています。
Liら(2024)の実験によれば、
嘘をついた人にマニピュレーターが生じることが報告されています。
もう少し正確に説明すると、
実験用に用意された模擬犯罪以外の課題を行い、
嘘をついているのではないかと疑われつつ、
正直に話をした実験参加者らに比べ、
実験用に用意された模擬犯罪を行い、
嘘をついているのではないかと疑われつつ、
嘘をついた実験参加者らにマニピュレーターが多く生じたことがわかっています。
この実験からマニピュレーター=嘘のサインという知見が得られます。
嘘のサインに関する科学知見です。エビデンス・ベイストな知見です。
嘘のサインから嘘を見抜くことに失敗する理由
それでは、目の前に嘘をついているか正直な話をしているか、
供述の真偽を確かめたい人物が一人いるとき、
マニピュレーターの有無から真偽を判定することは出来るでしょうか?
マニピュレーターを根拠に、何十人、何百人の人物に対し、「嘘をついている」と判定すれば、
正直に話す人々に比べ、嘘をつく人々を「嘘つき」だと平均的に正しく区別することになるでしょう。
しかし、この方法では、
正直に話す多くの人々も、「嘘つき」だと誤って判定されてしまいます。
目の前にいる一人の供述者を対象にしているならなおさらです。
平均的な現象から一人を判定してよいでしょうか?
こうしたことに対し、
嘘のサインに気づいたら、その話題について質問し、追及する、という方法が提唱されています。
マニピュレーターで言えば、マニピュレーターは嘘以外の理由で生じることもあるので、
誤判定しないように、マニピュレーターを見つけたら、その話題について追及する、ということです。
この方法にも疑問符が付きます。
嘘のサインという言葉自体が、バイアスを生むからです。
ある言動を嘘のサインと認定することで、「嘘をついている可能性が大きい」と考えてしまい、
追及中に生じる中立的な言動も嘘を示すモノとして判定しかねないからです。
嘘のサインという考えは、「嘘バイアス」を増殖させてしまう要因となると考えます。
嘘のサインから非言語の機能へ
それでは、どうしたらよいのか?
「機能で考える」ということを私は提唱します。
嘘のサインかどうかは、考えない。
嘘のサインの知識さへ不要。
必要なのは、例えば、マニピュレーターをみたとき、
「なぜ感情の波をなだめようとしているのだろうか?」と考えること。
そして、この疑問について、質問等を重ね解明していくのです。
嘘のサインという言葉を捨て、
非言語の機能から目の前の人物を見つめる。
この考えは、私が12年以上様々な場所で
虚偽検出実験をし、質問法×非言語サインを用いた真偽推測法を教授する中で
導かれた結論です。
一旦、「嘘のサイン」という言葉と非言語サインを結び付けたとき、
私たちがいかにバイアスにとらわれ、現象を中立的な目で観察できなくなってしまうのか。
ラベル付けの恐ろしさを多く目撃して来ました。
非言語の機能面に着目する人物の方が、嘘バイアスにとらわれにくい。
こうしたことを体験しました。
嘘のサインにとらわれない、
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参考文献
Li H, Song H, Li M and Li H (2024) Nonverbal cues to deception: insights from a mock crime scenario in a Chinese sample. Front. Psychol. 15:1331653. doi: 10.3389/fpsyg.2024.1331653