微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

リアルコミュニケーション再び~生成AIによる知覚への侵食


 生成AIと対話や議論をしていると、ときどき、「AIの知識、偏っている?」と思うことがあります。一方、「本当は自分の方が偏っているのに生成AIを負かそうとしているため、生成AIのアウトプットの方が偏っている」と言いがかりをつけようとしているのではないかとも思います。モヤモヤします。最近、このモヤモヤのヒントとなる本に出会いました。

 

それは、一田和樹、石井大智、石川雄介、岩井博樹、黒井文太郎『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』講談社 (2025/10/29)という本です。特に注目しているのは、p.63~p.65の内容です。

 

www.kodansha.co.jp

 

 本書の中で、生成AIの出力には開発者や組織の価値観・イデオロギーが反映されることが指摘されています。生成AIは言語圏ごとの世論や歴史認識を取り込みやすく、領土問題のように見解が割れる論点では回答が変わります。たとえば、クリミアの帰属をChatGPT-4に尋ねると、ロシア語では「ロシア」、ウクライナ語では「ウクライナ」と答えるとされます。台湾の帰属についても、簡体字では「中国」、繁体字では「台湾」と回答し、ゴラン高原でも同様の傾向が確認されています。
 このようにAIの答えは言語圏の前提で揺れますが、その揺れは開発主体が置かれた政治的環境によってさらに増幅されます。米国と中国の状況を見ると、トランプ政権は連邦機関におけるDEI(多様性・公平性・包括性)や気候変動を支持するAIの導入に否定的で、報道では政府文書から関連語の削除が進んでいるようです。一方、中国ではNewsGuard社の調査により、中国企業のAIモデルが自国に都合のよい回答を返す例が示されています。

 

 検索エンジンにキーワードを打ち込み、情報を取捨選択する時代から、生成AIに質問し、その回答を受け入れる時代へ移りつつある今日、生成AIの偏った回答は、私たちの異なる常識をあたかも中立な答えだと錯覚させるおそれがあります。さらに、AIを開発する国や組織のプロパガンダが生み出すエコーチェンバー(閉鎖的なオンライン空間で同質の価値観が共感によって拡大する現象)に巻き込まれやすくなる危険性も高まります。

 

こうならないためには、どうしたらよいでしょうか?

 

まずは、本書を読んで下さい。

 

表情分析家としての私の回答は、色々な人、様々な価値観が織りなす複数の団体とリアルな付き合いをしよう、ということです。リアルな人を前に、自分の意見や感想、常識と思うことを述べてみる。そうすると、受け入れられることもあれば、そうじゃないことも起きる。言葉では「私もそう思います」と同意しつつも嫌悪の微表情が出ていれば、本音は別かも知れない。

 

 私たちのコミュニケーションは、言語と非言語で成り立っています。言語一辺倒で展開されるオンライン空間から離れ、非言語で伝え・伝えられる物理空間に身を置くことで、コミュニケーションから得られる情報の質が増え、自身の思想の立ち位置を知ることが出来るでしょう。

 

 生成AIが愛撫するコミュニケーション世界は、ひとりぼっちをより「ひとり」にしてしまう。自分の世界が全てであると思い込み、様々な価値観が偏在する世界の声に耳を塞ぐどころか、その声の存在すら気づけなくなってしまう。そんなふうに思います。様々な価値観の存在を教えてくれるのは、アルゴリズムで決定づけられたAIではなく、ときに突拍子もないことをする人間です。リアルなコミュニケーションをしましょう。

 


追伸:私は、感情心理学、特に表情としぐさを通じて、ヒトのコミュニケーションについて日々考え、実践しています。そんな場の一つが、今週、開講されます。2025年11月15日 (土) 開講「表情・しぐさ分析12時間速習コース」です。詳細・申込は、次のURLをご覧ください。

https://peatix.com/event/4603917/view

 


清水建二