前回の「リアルコミュニケーション、再び~生成AIと人間のコミュニケーション~」では、川原繁人『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』朝日新聞出版(2025)を読み、生成AIとのコミュニケーションに警鐘を鳴らしました。ポイントは、①非言語を学べず感情の授受が鈍る、②言葉が人を傷つける感覚が薄れる、③AI的な速断・断定や誤読が広がる恐れがある、の三点です。便利さを認めつつ、人間にしかできない身体性あるコミュニケーションの重要性を強調しました。今回のブログでは、オンラインコミュニケーションと対比しながら、対面コミュニケーションの大切さについて論じたいと思います。
ZoomやTeams等のオンラインコミュニケーションは、インターネットがつながるところならば、どこにいても人とつながることが出来ます。殊、仕事の仕方に劇的な変化を及ぼしています。国交省「テレワーク人口実態調査」では、テレワークの良い影響として「通勤負担の軽減」(67.2%)、「業務の効率・生産性が上がる」(31.0%)等が挙がっています。私自身、海外との仕事の打ち合わせはもちろんのこと、国内の打ち合わせのほとんどがオンラインです。セミナーの多くもオンラインで行っています。オンラインコミュニケーションの便利さを享受しております。
しかし、同調査において「コミュニケーションがとりづらく業務効率が低下する」(43.0%)という声も挙がっています。この「コミュニケーションがとりづらい」の背景には、技術的な側面だけでなく、心理的な側面もあると思います。
とりわけ信頼関係の形成には、対話の「質」が要になります(今城・藤村, 2021;池田ほか, 2021)。上司・同僚との対話の質が高いほど、心理的安全性や「自分は任されている」という被信頼感が高まり、その結果として業務への適応や意欲が高まることが示されています(今城・藤村, 2021;池田ほか, 2021)。一方、オンライン環境では、同時発話の抑制や微細な表情・間合いの欠落、偶発的な雑談の減少により、関係の「厚み」が増しにくいという弱点があります(赤堀, 2021)。このギャップが「コミュニケーションがとりづらい」という感覚につながり、信頼関係が希薄になり、ひいては業務効率の低下として表れているのだと思います。
また、オンラインでのコミュニケーションに慣れてしまうと、対面コミュニケーションの勘所(視線、うなずき、間合い、同調のリズム)が鈍る可能性があります。ビデオ会議は遅延や視野の狭さなどにより非言語の同期が起こりにくく、脳に余計な負荷をかけます(いわゆるZoom疲れ)(小林, 2022)。この「同期のしにくさ」がコミュニケーションの質、ひいては、人間関係の質の低下を招くのではないでしょうか。
ということで、要所要所で積極的にリアルコミュニケーションをとり入れて行きましょう。意識的に鍛える機会を作りましょう。
私が主催するセミナーやコース、研修では、表情の読み方・伝え方を理論、ケーススタディー、動画を用いたトレーニング、ロールプレーイングと様々な観点から学んで頂けます。オンラインでの開催をベースにしつつも、リアルで交流する機会も設けています。直近で、個人様向けに開催を予定しているコースは、「表情・しぐさ分析12時間速習コース」(2025年11月開催)があります。レベル問わず、どなたでも受講いただけます。是非是非、一緒に表情コミュニケーションを学びましょう。詳細は次のURLをご覧ください。
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参考文献
赤堀 渉(2021). 在宅勤務が職場の関係性及びメンタルヘルスに及ぼす影響. 情報処理学会インタラクション2021.
池田 浩・縄田 健悟・青島 未佳・山口 裕幸(2021). テレワークのもとでの自己調整方略:自己調整方略の効果とそれを醸成する上司からの被信頼感. 『産業・組織心理学研究』35(1), 61–73.
今城志保・藤村直子(2021). リモートワーク下での上司・部下コミュニケーションの特徴と課題(日本心理学会 第85回大会発表資料). 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所.
国土交通省. (2024). 令和5年度 テレワーク人口実態調査―調査結果(概要)[PDF]. 国土交通省.
小林, 真綾. (2022). 労働者における「ズーム疲れ」―原因探索と対策提言. ○○大学研究紀要, 24–30(22). (機関リポジトリ版)