微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

リアルコミュニケーション、再び~生成AIと人間のコミュニケーション~

 

 川原繁人『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』朝日新聞出版(2025)を読みました。本書の主な目的は、未就学児が生成AI搭載のおしゃべりアプリを使用することに警鐘を鳴らすことです。しかし、未就学児だけでなく、未成年、そして、私たち大人にとっても、人間のコミュニケーションを考えるうえで大切なことを教えてくれます。特に大切だと思ったことを3点挙げたいと思います。なお、以下の記述は、本書そのものの内容というより、内容に刺激を受けた私の主張が織り込まれています。

 

一、聴覚情報に頼るおしゃべりアプリは、非言語コミュニケーションを教えてくれない(p.70~)
 スマホiPad、PC上のおしゃべりアプリは、私たちと流ちょうにコミュニケーションをしてくれるかも知れません。音声や文字で応答してくれます。しかし、表情や身ぶり・手ぶりでは答えてくれません。非言語なしのコミュニケーションに慣れ過ぎてしまうと、言葉にならない想いや言葉に込められた感情を伝えたり、受け取ったりする私たちの能力は低下してしまうでしょう。

 

二、言葉が人を傷つけ得ることを忘れてしまう(p.96~, p.98~)
 生成AIと会話をするとき、命令口調で言っても、手厳しい批判をしても、何度タスクをやり直させても、文句ひとつ言わず、素直に応じてくれます。悩み相談をして、同じ愚痴をぐるぐる繰り返し続けても、「共感」的に応答してくれます。同じことを生身の人間には出来ないでしょう。話し相手の反応に応じて言葉を選ぶのではないでしょうか。生成AIとのコミュニケーションに慣れ過ぎてしまうと、「言葉が人を傷つけ得る」ことを忘れ、自分本位のコミュニケーションに陥ってしまうでしょう。

 

三、生成AI的コミュニケーションが蔓延する可能性(p.114~, p.125~)
 ChatGPTに「~を2000字でまとめよ」とコマンドすれば、すぐに応じてくれます。人間より早いです。「え~っと」「あ~」などの言い淀みはありません。「…かも知れません」「…だと思う」という自信のない発言は限定的です。本書で紹介されていたおしゃべりアプリは、「人気(ひとけ)のないところ」を「人気(にんき)のないところ」と発話し、「緑道」を「みどりどう」と発話します。生成AIとのコミュニケーションをお手本にしてしまうと、人間同士のコミュニケーションにおいて、生成AIに投げ掛けるプロンプトのような発話をしてしまったたり、正しい読み方が変わってしまったり、返答スピードの速さや曖昧性の排除が求められるゆえ根拠や自信のないことでも即断や断定してしまったり、生成AI的コミュニケーションが蔓延するようになるかも知れません。

 

 私は平生、ChatGPTを使っています。使わない日はないレベルです。本当に便利です。仕事で大活躍しています。しかし、その功罪を見つめることは欠かせません。本書の筆者は、おしゃべりアプリを「臨床試験なしの新薬」と例えていますが、言い得て妙です。生成AIの発展を模索するうえで、批判は懸念の解消に役立つでしょう。しかし、身体を持つ人間と持たないAIには越えられない壁があります。生成AIとのコミュニケーションが当たり前の世界になりつつある今日、私は、表情分析の専門家として、人間にしか出来ないコミュニケーションを考え続けたいと思っています。

 

生成AIとのコミュニケーションを考えたい方に、本書をおススメします。

publications.asahi.com

 


追伸:表情分析の専門家として人間にしか出来ないコミュニケーションを考え続ける活動の一環が、セミナーです。表情科学の理論が現実世界のコミュニケーションにどう活かせるのか、限界は何か。実務で使える表情コミュニケーションを考え、トレーニングし、身に付けたい方。是非、「表情・しぐさ分析12時間速習コース」にお越しください。11月開講です。初心者向けですので、どなたでもご受講して頂けます。

https://peatix.com/event/4603917/view

 


清水建二