微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

どの子をいつ観るか、いつ観ないか?―観察対象が複数名いる場合

 ここ数年、学校の先生や教育者志望の学生さん向けに子どもの感情と表情の関係についてお話しする機会が増えています。先日、公立中学の先生向けの研修会が終わり、アンケートに目を通していると、こんなコメントを頂きました。

 

30人以上の生徒を同時にどう見れば良いのでしょうか?
クラスで全員の表情を一人一人確認するには難しい。実践的な活用方法を知りたい。

 

さて、どんな方法があるでしょうか?

 

私の研修では、以下の動画のように、一人、あるいは、二人の小・中学生の表情写真や動画を提示し、どこに着目に、どう円滑なコミュニケーションにつなげるかについてお話しています。ゆえに、こうした問題意識が生じたことと想像します。

 

youtu.be

 

「こちらに目を合わせて来た生徒に対応する」。これは基本です。しかし、多くの生徒と目が合う。逆に、誰とも目が合わない、合わそうとしてくれないときもあるでしょう。

 

具体的な問題を通じて考えてみましょう。先生だけでなく、セミナー講師、会議の進行をするファシリテーター、企画会議や営業でプレゼンすることがあるビジネスパーソン等にも役立つと思います。

 

問題1:あなたは公立中学の先生です。ある問題の解説中、生徒の表情が変わるのに気が付きました。どの生徒にどんな対応をしたらよいでしょうか?このとき、勉強の得意な順番が、①>②>③>④の生徒と仮定します。

 

※本画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。

解説:公立中学の使命は、往々にして「落ちこぼれを出さない」というものだと思います。そうだとすれば、観察の優先順位が高いのは、勉強が得意ではない生徒です。すなわち、④の生徒に注意を向けます。④の生徒は、眉間にしわを寄せています。具体的には、眉が中央に寄り引き下げられる熟考表情です。熟考のニーズは、「考えたい」です。先生の解説がわからない。ゆえに「考えたい」のでしょう。④の生徒に質問を促す、解説を丁寧にし直す、そんなアプローチがよいと思います。

 

状況を変えて考えてみましょう。

 

問題2:あなたは進学塾の先生です。ある問題の解説中、生徒の表情が変わるのに気が付きました。どの生徒にどんな対応をしたらよいでしょうか?このとき、勉強の得意な順番が、①>②>③>④の生徒と仮定します。

 

※本画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。

解説:進学塾の使命は、「志望校に受からせる」というものです。そうだとすれば、観察の優先順位が高いのは、勉強が得意な生徒です。勉強が得意な生徒に解説の水準を合わせ、クラス全体のレベルを引き上げます。勉強の不得意な生徒、解説が難しいと思う生徒に、「このままではいけない。もっと頑張らねば」と思ってもらうためです。

 

すなわち、勉強が得意な①の生徒に注意を向けます。①の生徒は、眉が引き上げられ、目が見開かれ、口角が引き上げられる興味・関心表情です。興味・関心のニーズは、「知りたい」です。先生の解説に魅力を感じる。ゆえに「知りたい」のでしょう。このとき、特段の対応は必要なく、そのままのペースで授業をして大丈夫です。もし、「この子の興味・関心をさらに引き上げたい」と思うならば、解説している問題に関する応用的な話、例えば、異なる解き方を教える、応用問題を紹介・宿題にする、そんなアプローチもよいと思います。

 

問題1と2では、勉強の得意・不得意でどの生徒を優先するかを変えましたが、状況に応じて、感受性の高い生徒・低い生徒、対象となっている問題について関係が深そうな生徒に焦点を当てて、観察するとよいでしょう。また、机間指導のタイミングを活用すれば、なるべく多くの生徒の表情を観ることも出来るでしょう。

 

セミナー講師ならば、セミナー中、受講者の中に何名か反応が良い人がいることに気づくはずです。そうした方々をベンチマークにすることが出来ます。広くビジネスの世界では、反応の良い人だけでなく、「この話題なら、この人の動向を気にするべき」というのがあると思います。また、プレゼンや営業場面では、意思決定者の反応に注意を払うべきでしょう。

 

観察対象が複数名いる場合、全員観察しようとするのではなく、観察対象を絞ることが重要なのです。

 

なお、②は、下唇を噛んでいます。マニピュレーターと言い、感情に波が生じ、それを抑えようとする表情です。何の感情かわかりませんが、落ち着いていない状態。また、左に視線を向けています。視線の先は、興味・関心の対象です。授業中、正面を向いていないということから、授業以外の何かに興味・関心が生じ、何らかの感情が喚起されたものと推測できます。③は、中立表情です。感情がない、あるいは、弱い状態です。

 

おまけ:12月某日。移動中の一コマ。

 


清水建二