本日は前回の続きです。学術論文の読み方―研究方法・研究結果・考察編です。
研究方法には、実験の調査方法が書かれています。実験参加者の構成や実験の手順、分析方法などが書かれています。論文の内容を批判するときは、主にこの研究方法の部分を的にします。「この論文の研究方法が○○という点で不適切なため、本論文の言う結論を見出すことはできない。」このように批判がなされます。このような批判の仕方を建設的な批判と言います。
一方、「この論文の言うことに価値を感じられない。」と言って論者や論文の内容を批判する仕方を破壊的な批判と言います。また「この論文の言うことは信じられない。なぜなら私の経験に反するからだ。」「この論文の言うことは信じられない。○●先生の意見とは違うからだ。」という批判の仕方を素朴な批判と言います。
もちろんある論を正当に批判する方法は、建設的な批判です。当然、建設的な批判をするには、研究方法をよく読み、その中にある問題点を探す必要があります(結果や考察のロジックが変だと批判できる可能性もなくはないのですが、研究方法の問題点を指摘する方が、オーソドックスな批判の仕方です)。
なお、建設的な批判を日常・ビジネスで行うには、その人の見解そのものを直接的に批判するのではなく、その見解に至ったロジック、データの整合性に関して批判することで見解に異を唱えることになります。こうした批判の仕方をすることで、相手の見解をより良いものへと昇華させられる可能性が生まれます。
おまけの話しですが、私もセミナーなどで批判を頂くことがあります。建設的な批判には、時間の許す限り真面目な議論で対応します。破壊的な批判は、スルーします。素朴な批判には、相手の受け入れやすい返答をお返ししています。
研究結果には、統計検定の結果が書かれています。統計学の知識がないとこの部分を理解することは出来ません。しかし、統計の知識があれば、この論文の言っていることがどのくらいの精度で確からしいのか、どのくらいの確率で間違える可能性があるのかが、客観的な数値から確認することが出来ます。
考察には、統計検定で得られた数値から何が言えるのかが書かれています。新たな仮説が生まれたのか、イントロダクションに提示した仮説が検証できたのか否かが書かれます。
考察の中、もしくは考察の後に書かれるものとして、研究の示唆・研究の限界・将来の研究、というものがあります。研究の示唆には、本研究の知見がどのような役に立つのか、他の研究結果と比べてどのように有用かなどが書かれています。
研究の限界には、本研究結果が明らかに出来た部分とそうでない部分が書かれています。また想定される建設的な批判が書かれる場合があります。例えば、「本研究の実験参加者は全て大学生である。実験参加者に様々な年齢層の社会人を含めたら、研究結果が変わり得る可能性もある。」という感じです。
将来の研究には、研究の限界を踏まえて、それを埋めるような研究、明らかに出来た部分を再度確かめる別の方法、明らかに出来ていない部分を明らかにするための研究の方向性などが書かれています。
学術論文を読むには、前提となる知識や論文特有の言い回しなどがあり、最初は読みにくいかも知れませんが、知識の蓄積と慣れによってどんどん読めるようになります。自身の見解を科学的なものにしたい、もしくは人に客観的な「事実」を伝えようとされる方にとって、学術論文を読めるようになることは必須だと私は考えています。
清水建二
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科学的思考法とは何ぞや、ということについて書いてあります。ポパーの反証可能性命題についての説明が素敵です。
社会科学分野における様々な実証方法が紹介されておりますが、特に第0章の導入部分が秀逸だと思います。第0章以外は読まなくてよいとしても、第0章は科学リテラシー向上にはすべての人に読んで頂きたいと思えるくらい重要な章だと思います。