前回の続きです。
オリンピック宣伝用の写真を撮って来るように頼まれた写真家と爆弾を仕掛ける場所を撮って来るように頼まれたテロリスト、見た目上はカメラを首にぶら下げ、撮影しているだけです。両者をどう区別するのでしょうか?
二つのステップから正直者=写真家とウソつき=テロリストの行動パターンの違いが検討されます。
ステップⅠ
正直者もしくはウソつきが一人で写真を撮っているとそこにストリートパフォーマー(※1※2)が近づき、自分の写真を撮って欲しいとお願いします。そしてどんな写真を撮っているのか見せて欲しいと頼みます。このストリートパフォーマーは実験者側が用意した人間です。写真を撮影している当人たちは、このことを予期していませんでした。
ステップⅡ
写真を撮り終えた正直者かウソつきは、テロリストだと疑われ、取り調べを受けます。
ステップⅠとⅡからわかったことはどんなことだったでしょうか?
ステップⅠ
ウソつきは正直者に比べ、非協力的であったことがわかりました。パフォーマーの写真を撮りたがらないし、自分の撮影した内容も見せたがらない、ということがわかりました。これとは別の調査でも、旅行者は通常、自分の撮影した写真を見ず知らずの他人にも喜んで見せるという行動が確認されています。悪意を実行しようとしているウソつきは、それを成功させるためにその計画が露呈してはマズいため、誰かと接触するのを避け、人の記憶の中に残りたくないと考えます。そんな心性が行動に出ているのだと考えられています。
ステップⅡ
写真の中に防犯カメラなどが映り込んでいた場合、正直者に比べウソつきは防犯カメラが映っている理由を過度に説明しようとしました。人間は隠そうと思うほど、そこに意識が向かってしまう、意識を向けている対象に言説が向かってしまうと考えられています。
日本でのオリンピック警備もこの研究を参考にしてみたらいかがでしょうか?
※1ウソつきは自分がウソつきだとばれた場合、罰則が与えられるような設定となっています。
※2警察官に写真を見せるように言われると、正直者もウソつきも同様の行動パターンを示すことが知られています。例えば、正直者は、自分がテロリストと疑われ連行されてしまうのではないかという「恐怖」を感じ、ウソつきは犯罪の計画が露呈してしまうのではないかという「恐怖」を感じます。したがって、写真を撮っている者に声をかける場合、制服警察官ではない、愛想の良い普通の人を装った覆面警察官が良いとされています。
清水建二
参考文献
Jundi, S. Vrij, A. Mann, S. Hillman, J. Hope, L. (2015). ‘I'm a photographer, not a terrorist’: the use of photography to detect deception. Psychology, Crime & Law Volume 21, Issue 2, 114-126.