「清水さんと交渉するのは嫌だな、こちらの手の内がバレそうだから。」
そんなことをよく言われます。
そんなとき、決まって私の返答は、
「では、お酒の席で交渉の話をしましょう。アルコールを飲むと私の微表情検知力はグンと下がりますから。」
そんなやり取りを冗談交じり、半ば本気でしています。
さて本日は、アルコールと表情読解のカンケイをお話ししたいと思います。
お酒を飲むと気持ちが「ファ~」となりますよね。感情もポジティブになる。そうなると、注意力が散漫になり、微表情検知力どころか表情や顔を正しく読みとることが難しくなります。
アルコール依存の患者さんと一般の方々の表情読解力をテストした研究があります(Kornreichら, 2002)。研究では2つのことが調査されました。
最初に、アルコール依存症の治療の最終段階にいる患者さんと一般の方々に、対人関係診断テストを受けてもらいます。次に、様々な強度・種類の表情写真が収められた表情判断テストを受けてもらいます。
調査の結果、アルコール依存の患者さんは一般の方々に比べ、対人関係に問題のある指標が多く検出され、表情読解の正答率も低い傾向にあることがわかりました。
ただし、アルコール依存と対人問題及び表情読解との関係は、冒頭に挙げた例のようにアルコール依存が原因となっているのか、アルコール依存が結果となっているのかに関して、この研究は明らかにしていません。
アルコールの影響下にある身体が、他人の表情を始めとする非言語情報を読みとるのを困難にし、対人関係に支障をもたらす、もしくは、その逆、非言語読解が不得手で対人関係に支障をきたすから、アルコール依存に向かう、そんな因果の方向性も考えられます。
いくつかの研究の示唆するところでは、後者の因果の方向性が強いようです。非言語情報の読みとりが不得手な人が、対人関係にストレスを感じ、それが積もりつのって、アルコールへ走る、アルコールの影響下で、さらに非言語情報の読みとりに支障をきたし、対人関係がさらに悪化する…そんな負のスパイラルが起きていると考えられています。原因が結果を引き起こし、その結果が新たな原因を生み出す…アルコールと表情読解にはそのような関係がありそうです。
ところで、よくお酒の席で恋?が生まれますよね?私たちの顔は、整形をしない限り、微妙に左右非対称です。そんな左右非対称な顔でも、お酒の力で相手の顔が左右対称の美しい顔に補正され(左右対称な顔を私たちは直感的に美しいと感じる傾向にある)、美男美女に見える、だから好きになる、ウソかマコトか、そう言われれば確かに納得させられるような、そんなお話もあります。
アルコールと表情読解、幻想から覚めるのが幸せなのか、不幸なのか、この問いに対する答えは科学の中にではなく、皆さんの体験の中にあるハズです。
清水建二
参考文献
Foisy ML1, Kornreich C, Fobe A, D'Hondt L, Pelc I, Hanak C, Verbanck P, Philippot P. Impaired emotional facial expression recognition in alcohol dependence: do these deficits persist with midterm abstinence? Alcohol Clin Exp Res. 2007 Mar;31(3):404-10.