私が学生だった頃、いじめを目の当たりにすることがありました。
いじめの加害者を見ていて当時思ったことは、
こいつらは人の気持ちがわかるから、いじめることができるんだ。
人が嫌がるツボを知っていて、かつそれを実行することに何の躊躇もないからいじめられるのだ。
と、漠然と思っていました。
これは当時の自分にとって非常に混乱する現象でした。
「相手の気持ちがわかる」
ということは良い意味でしかとらえていなかったからです。
長年、モヤモヤした気持ちのまま生きてきましたが、感情心理学の門をくぐり、この謎は解けました。
諸研究によりわかっていることは、他者の感情を読みとれる能力は、親切な行為などの向社会的行動だけでなく欺瞞行為や詐欺的行為と言った反社会的行動とも関連がある、ということです。
これはどういうことでしょうか?
他者の感情を読みとる能力は諸刃の刃であり、使い方の如何によって、良いものにも悪いものにもなり得、他者の感情を読みとる、という能力を持っているだけでは、社会にとって良い行動をとることにつながるわけではないようです。
では、向社会的行動促進には、何が必要なのでしょうか?
他者の感情を読む能力に加え、共感心や同情心が必要とされています。
ある研究では(Gopnik, 2010)、他者の感情を読みとる能力に他者に対する共感や同情心というものが伴わない場合、反社会的な人格傾向が生じてしまう可能性すら指摘されています。
他者の感情を読みとり、その感情をリアルに想像し、自分のココロに置き換える、自他同値、この二つの能力が相まって始めて私たちは「思いやり」という能力を発揮する基盤が整うのです。
え?そんなの当たり前ですって?
それはあなたが常識人の証拠です。
清水建二
参考文献
Gopnik, A. (2010) The philosophical baby: What children’s minds tell us about truth, love, and the meaning of life. New York: Farrar, Straus and Giroux.