うつ患者の表情を機械の目はとらえることができるか?
結論としては、出来る可能性が高い、と言えそうです。
医師に診断を受けている重度のうつ病患者の表情がFACS(表情を数字とアルファベットで測定するマニュアル)によって分析されました。同じものが今度はFACSを自動的に検出するカメラで分析されました。
その両者の一致度が測定されました。
その結果…
その前に、
重度のうつ病患者の表情の特徴とは何でしょうか?
今回の分析によりわかったことは、重度のうつ病患者は、「軽蔑」表情をよく浮かべ、笑顔をあまり見せない、笑顔があったとしても「軽蔑」表情を伴った笑顔である傾向が高い、ということでした。
またうつ症状が緩和されるにつれて、笑顔を見せるようになるということもわかりました。
社会リスク仮説(Social risk hypothesis)によれば、うつ症状がひどい場合、うつ病患者は、自分が拒否されたり、バカにされたり、拒絶されたりすることから自身を守るために、人と距離を置こうとする傾向にあるようです。
「軽蔑」感情は、自尊心に関連する感情です。
うつ病の方は、自己評価を驚くほど正確にできる、という研究結果もあります。
うつ病の方は自分に向けられる他者のネガティブな感情を察知してしまったとき、自尊心を守るために「軽蔑」感情を抱き、自分を守る、というふうに考えられます。
今回の分析されたうつ病患者の表情・感情は、社会リスク仮説通りの結果と一致しているようです。
さて、FACSコーディングの資格を持った専門家の目とFACS搭載のカメラの目との比較の話に戻ります。
分析の結果、人間のFACSコーダーが目視で分析した表情とFACS搭載のカメラが分析した表情は、6~9割が一致していました。
まだまだ表情の専門家の目の方がカメラの目より、表情分析の精度は高いようです。しかし、自動化FACSコーディングの実現もそう遠くはないのかも知れません。
清水建二
参考文献
Social risk and depression: Evidence from manual and automatic facial expression analysis Girard, J. M., Cohn, J. F., Mahoor, M. H., Mavadati, S., & Rosenwald, D. P.
IEEE International Conference on Automatic Face & Gesture Recognition, 2013