私たちは常に人の顔を見ています。顔は表情というフィルターを通して人の感情を伝えてくれます。そして感情は生きていくうえでの様々な意思決定をする手段となります。こんなに身近で大切な情報を伝えてくれる顔ですが、私たちはどのくらい正確に顔というものを見ているのでしょうか?
表情研究の第一人者であるPaul Ekmanは、私たちの表情識別力を測定する実験を行いました。まず、アメリカ人、ブラジル人、チリ人、アルゼンチン人、日本人の国別に分けられた実験参加者に「幸福」「嫌悪」「驚き」「悲しみ」「怒り」「恐れ」の表情を表す顔写真を見てもらいます。そして実験参加者に、提示された顔の表情写真がどの感情を表現しているかを判定してもらいます。実験結果は表1の通りです。
表1 表情判定の一致率
|
アメリカ |
ブラジル |
チリ |
アルゼンチン |
日本 |
幸福 |
97 |
95 |
95 |
98 |
100 |
嫌悪 |
92 |
97 |
92 |
92 |
90 |
驚き |
95 |
87 |
93 |
95 |
100 |
悲しみ |
84 |
59 |
88 |
78 |
62 |
怒り |
67 |
90 |
94 |
90 |
90 |
恐れ |
85 |
67 |
68 |
54 |
66 |
出典:P. Ekman(1973)を参考に筆者作成。
※数値は百分率(%)で、正解率を示しています。
国によって表情読みとり能力に幅があるものの、いくつかの表情に関しては国を問わず共通して高い正解率が得られているということがわかりますね。
では、私たち日本人の能力に注目してみましょう。どうやら私たち日本人は、「悲しみ」と「恐れ」を読みとるのが不得手のようです。この研究は一昔前のものですが、近年なされた日本人対象の同様の実験でも同じような結果が見出されています。例えば、昭和女子大学の木村あやの(2013)助教の実験によれば、日本人の「恐怖」表情の読みとり率は、4割程度で、「恐怖」と「驚き」表情を取り違える傾向にあるようです。
それでは、私たちの「微表情」読みとり力はどうなのでしょうか?実は「微表情」読みとり力に関して、これまで学術的な調査がなされてきませんでした。しかし、近年、非西洋文化圏の人々(韓国人)及び西洋文化圏に暮らす人々を対象とした調査が初めてなされました。サンフランシスコ州立大学のDavid Matsumoto教授らの研究から調査結果を見てみましょう。結果は表2の通りです。
表2 韓国人の「微表情」読みとり率
|
韓国に暮らす韓国人 |
幸福 |
82 |
嫌悪 |
37 |
驚き |
77 |
悲しみ |
41 |
怒り |
40 |
恐れ |
19 |
軽蔑 |
40 |
出典:Matsumoto, D. & Hwang, H. S. (2011)を参考に筆者作成。
※数値は百分率(%)で、正解率を示しています。
「幸福」や「驚き」はかなり高い正解率で、他の項目はそこそこといった感じでしょうか。しかし、表1に示したような普通の表情判定と比べると差は歴然としています。比較対象国も時代も違うので、厳密には両者の研究を比べることはできないのですが、私の経験(セミナーでの実験や他の微表情トレーナーの調査)の範囲で申し上げるならば、私たち日本人の微表情判定率においても、同様の差が観察できます。
実はこの調査には続きがあります。「微表情」読みとり力をトレーニングしたら、その能力はどれだけ向上するのだろうか?どれくらいの期間のトレーニングでその能力は身につくのだろうか?一度身につけた能力はどのくらい維持できるのだろうか?という疑問をさらに探求します。
気になりますね。続きは来週ということで。
清水建二
参考文献
P. Ekman, (1973). “Cross-cultural studies of facial expression,” in P. Ekman(ed.), Darwin and facial expression, New York: Academic Press.
Matsumoto, D. & Hwang, H. S. (2011). Evidence for training the ability to read microexpressions of emotion. Motivation and Emotion, 35(2), 181-191.
木村あやの(2013)『研究用日本人表情刺激の作成とその臨床的適用』風間書房