微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

面接に役立つ言語・非言語観察法―違和感を見える化する編②

 

前回の続きです。

 

「腹が立ってきた。」という言葉を言った学生さんの顔には「恐怖」の微表情が浮かびました。

 

さて、この違和感を見える化するには、どんな会話の続け方があり得るでしょうか(※1)?

 

直接その感情について尋ねる直接法と感情の機能をサポートする間接法があります。

 

直接法とは、

 

面接官:「そのとき何か不安を感じることはありましたか?」

 

と、面接官が検知した感情についてストレートに尋ねる方法です。

 

間接法とは、

 

面接官:「人に意見を言うことや行動を促すことは勇気が要りますよね。どんなふうにK君に行動を促したのですか?」

 

と尋ねる方法です。「恐怖」感情の機能は、「身体・精神の安全を確保する・危機を回避する」というものです。「勇気が要りますよね。」という発言をすることで、面接官側が学生さんの感情を代弁することになります。学生さんの感情の機能をサポートすることで、その学生さんにどんなふうにその機能を果たしたのかをより明確にし、答えやすくしてもらえるのです。

 

直接法も間接法もその根底に共通することは、本当はその出来事に対し、腹が立ったのではなく恐怖や不安を感じた、もしくは腹が立つよりも恐怖や不安の方を強く感じた可能性があると考え(※2)、学生さんの感情傾向を正しく推定する質問方法であるということです。

 

学生さんの「腹が立ってきた。」という言葉を文字通りとらえ、会話を続けてしまうと、学生さんの感情傾向を正しく見定められない可能性があります。さらに今回紹介した質問法を実践することで、学生さん本人も気づいていなかった自身の感情傾向に気付かせてあげることも出来ます。

 

そして感情傾向を見定めることから、次のような人物像の推定につなげます。

 

問題に対して「怒り」感情を感じる人ならば、その問題を、乗り越えるべき「壁」ととらえているため、何か起きた時は自身の力でその問題を解決するパワーを秘めている人物だと推定できます。「恐怖」感情を感じる人ならば、問題を脅威ととらえているため、類似問題の対処法を思いつけるポテンシャルを秘めている人物像だと推定できます。

 

微表情の読みとりと感情心理学の知見を統合して、こんなふうに人物像を推定していきます。

 

いかがでしょうか?

 

微表情から学生さんの内なる声を聞き、より正確な人物像を推定し、ときに学生さん自身も気づいていない感情傾向や行動傾向を浮き彫りにする面接法なのです。

 

微表情検知テクニックを用いた面接法、日本でも広がることを期待しつつ、明日も営業してきます。

 

 

※1面接官に微表情や感情の機微を明確に検知できるスキルがあることが前提です。

※2学生さんがウソの会話を始める前兆という可能性も排除しきれません。ウソをついている人は真実を述べている人に比べ、微表情を浮かべる傾向にあります。中でも特に、「恐怖」「苦悩」「嫌悪」「軽蔑」の微表情を浮かべる傾向にあります (Frank & Ekman, 1997; Frank, Hurleyら, 2011; Matsumotoら, 2011)。

 

 

清水建二

参考文献

Frank, M.G., Hurley, C.M., Kang, S., Pazian, M., & Ekman, P. (2011). Detecting deception in high stakes situation: I. The face. Manuscript under review.

Haggard, E. A., & Isaacs, K. S. (1966). Micro-momentary facial expressions as indicators of ego mechanisms in psychotherapy. In L. A. Gottschalk & A. H. Auerbach (Eds.), Methods of Research in Psychotherapy (pp. 154-165). New York: Appleton-Century-Crofts.

Frank, M. G. & Ekman, P. (1997). The Ability to Detect Deceit Generalizes Across Different Types of High-Stake Lies. Journal of Personality and Social Psychology, 72(6), 1429-1439.

Matsumoto, D., Hwang, H.S., Skinner, L., & Frank, M. G. (2011). Evaluating Truthfulness and Detecting Deception: New Tools to Aid Investigators. FBI Law Enforcement Bulletin, 80, 1-8.