微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

自分を見つめるー医師と自殺者とのコミュニケーションより

 

表情を読みとるトレーニングは、他者のことだけでなく、自分の内なる声を聞くことにも役立ちます。表情筋のどんなコンビネーションが、どんな意味を持つのかについて知ることによって、他人の顔の変化からその人の感情や意図がわかるのは当然です。しかし、同時に自分の顔がどう動いているかも自覚できるようにもなるため、自分が様々な事柄に対し、どんな感情反応や意図を抱いているかに関して明確にわかるようになるのです。

 

自分の感情反応や意図がわかる、いわば自分の内なる声が聞こえるという状態が、人を救うことにつながる可能性を示してくれた研究をご紹介します。

 

自殺未遂をし、病院でケアを受けている患者さんに対し、医師が、20分にわたり診断を行います。その様子はカメラに記録されています。診断後、医師は、患者さんが再び自殺をするリスクを見積もります。

 

診断の1年後、ある患者さんは自殺を再度企て、ある患者さんは自殺を企てませんでした。

 

1年前の診断の録画記録と医師の診断(リスクの見積もり)が精査されました。

 

その結果、

 

自殺を再度企てた患者さんを医師が診断しているときの方が、自殺を企てなかった患者さんを診断しているときに比べ、医師の表情は大きく変化し、とくに眉が下がる動き(集中・注意を意味する顔の動き)や患者さんに視線を長い間向けたりと、将来の自殺行為患者さんに注目する顔の動きが観察されました。

 

その違いを数値にすると、医師の表情変化から、医師が、自殺を再度企てた患者さんと自殺を企てなかった患者さんのどちらを診断しているかについて80%-90%の精度で区別できることがわかりました。

 

一方、医師の診断の精度は、23%程度の精度で両者を区別できていたことがわかりました。

 

もし、医師が自身の表情変化により自覚的であったなら、診断の精度を高めることができたかも知れません。

 

この結果からは、医師の診断力の精度が良い方向には検出されませんでしたが、医師の中にも自殺や精神病の徴候を、直感的に読みとる能力のある方がたくさんおられるのも事実です。その直感力を少しでもスキル化できる、暗黙知を「見える化」させる、自分の内なる声に敏感になれる、そんなきっかけを表情分析は提供できるのかも知れない、とこの研究は教えてくれる気がします。

 

 

清水建二

参考文献

Haynal-Reymond, G.K. Jonsson and M.S. Magnusson, "Nonverbal Communication in Doctor-Suicidal Patient Interview", The Hidden Structure of Interaction, IOS Press, ch.9, 2005.