微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

ウソ検知の科学⑩―ウソのサインのウソ・ホント②

 

ウソのサインに関する誤解はどうして生じてしまうのでしょうか?個人的な経験、「専門家」の話やウソを見抜く系のハウツー本などによって形成されることはよくあると思われます。その中でも、今回はウソ検知に関する誤った認識を広げてしまっている書籍をご紹介しようと思います。

 

多くの捜査関係者の取り調べマニュアルとして古典的な名著として知られ、影響力を持つ書籍があります。1986年に出版され、2001年に改定されたInbauら(2001)によって編纂されたCriminal interrogation and confessionsという取り調べマニュアルです。

 

Inbauら(2001)によると、このマニュアルは多くの取り調べの経験からウソつきの行動が集められ、編纂されたもので、マニュアルのテクニックに習熟するために何千人もの捜査官が訓練を受けているといいます。しかしこのマニュアルに書かれているウソつきの行動は、科学的に検証されたものと反するものが含まれています。例えば、ウソつきは、視線をそらす、不自然な姿勢をとる、話すときに手で口や目を覆う、とこのマニュアルには書かれているのですが、これらの行動がウソつき特有の行動であるという科学的根拠はありません。

 

このマニュアルの効果を調べた研究があります(Kassin & Fong, 1999)。あるグループには、このマニュアルに書かれているウソのサインが伝えられ、検知トレーニングがなされます。他のグループには、ウソのサインの情報については何も伝えられません。この両者のグループにウソ検知テストが実施されました。実験の結果、マニュアルで訓練されたグループのウソ検知率は、ウソのサインに関して何の情報も持たないグループと比べて、低い、ということがわかりました。

 

誤りの含まれている情報を得てしまうことは、情報が何もないことよりも、ときに問題があるということがこの実験からわかります。

 

次回は、職業別のウソ検知能力を計測した実験をご紹介しようと思います。私たち一般人と比べて、警察官、検察官、弁護士などのウソに接する機会が多い人たちのウソ検知力は、本当に高いのでしょうか?次回のお楽しみです。

 

 

清水建二

参考文献

Inbau, F. E., Reid, J. E., & Buckley, J. P. (1986). Criminal Interrogation and Confessions (3rd ed.). Baltimore, MD: Williams & Wilkins.

Inbau, F. E., Reid, J. E., Buckley, J. P., & Jayne, B. C. (2001). Criminal Interrogation and Confessions (4th. ed.). Gaithersburg, MD: Aspen Publishers.

Kassin, S. M.,&Fong,C.T. (1999). “I’m innocent!”: Effects of training on judgments of truth and deception in the interrogation room. Law and Human Behavior, 23, 499–516.