微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

ウソ検知の科学⑤―ウソつきの行動②

 

前回、ウソのサインについてご紹介いたしました。

今回はそれぞれのサインについて解説しようと思います。

 

①高い声のピッチ

嘘をつくときに起きる感情の高ぶりが、声のピッチを高める場合があります(Ekman, Friesen, & Scherer, 1976)。しかし、嘘つきと正直者の声のピッチの違いの差は、非常に小さく、生身の耳で捉えることは非常に困難です。

 

②声の緊張

嘘をつくときに起きる感情の高ぶりが、声の緊張となって生じる場合があります。

 

③スピーチエラー

単語及びセンテンスの繰り返し、センテンスの変化、センテンスの不完全さ、言い間違えなどは、複雑な内容を話す必要があるときに生じる傾向にあります。

 

④言語的なためらい

「え~」「あ~」などの言葉の始まり、もしくは途中に挟まれる、言語的なためらいは、複雑な内容を話す必要があるときに生じる傾向にあります。

 

スピーチエラー及び言語的なためらいは、ウソをついているときに増加することが知られています。複雑なウソをつくために認知的な負担が高まり、感情的にも神経質になるゆえに起こる現象だと考えられています。しかし、でっち上げるのが簡単なウソの場合、ウソつきはウソをつくとき、スピーチエラー及び言語的なためらいを起こす頻度が低下することがわかっています(Vrij & Heaven, 1999)。またウソを見抜こうとする人の質問に対して、ウソの疑いをかけられている人が質問をオウム返しするような場合もスピーチエラーや言語的なためらいに含まれます。質問を繰り返すことでウソをつく時間を稼いでいると考えられます。

 

⑤イラストレーション及び手と指の動き

自己が話している内容を修正したり、補強したりする機能を持つ手及び腕の動きであるイラストレーターと呼ばれる動きの使用頻度が低下します。また、腕の動きを伴わず、何の目的も持たない手及び指の動きも少なくなります。これらの動きの低下は、認知的負担によるものだと考えられています。人は認知的負担が増加すると身体の動きを止めるのです(Ekman & Friesen, 1972)。

 

⑥微表情

ウソをついている者は真実を述べている者に比べ、微表情を浮かべる傾向にあります(Ekman & Friesen, 1969; Frank, Hurleyら, 2011; Haggard & Isaacs, 1966)。中でも特に、「恐怖」「苦悩」「嫌悪」「軽蔑」の微表情を浮かべる傾向にあります (Frank & Ekman, 1997; Frank, Hurleyら, 2011; Matsumotoら, 2011)。例えば、あるウソつき実験によると、ウソつきの51%が0.5秒以下、30%が0.25秒以下の速度で発現する微表情を見せました(Frank, Hurleyら, 2011)。また、唇を上下からプレスする動きも嘘つきの表情に観察される傾向にあります(DePauloら, 2003)。この動きも感情コントロールの一種です。

 

※「騙す喜び」と呼ばれる「幸福」の微表情が嘘つきの顔に浮かぶこともあります(Ekman, 1985/1992)。

 

あれ?目が泳ぐとかは?モジモジするとかは?と思われた方おいででしたでしょうか?実はこれらのサインは科学的にはウソのサインだとは認められておりません。よく誤解されているウソのサインについてご紹介する前に、今回登場したワード、心理的負担と認知的負担、この二つの関係について次回は解説しようと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Ekman, P., Friesen, W. V., & Scherer, K. R. (1976). Body movement and voice pitch in deceptive interaction. Semioiica. 16. 23-27.

Vrij, A., & Heaven, S. (1999). Vocal and verbal indicators of deception as a function of lie complexity. Psychology, Crime, and Law, 5, 203–215.

Ekman, Paul, and W. V. Friesen (1972). Hand movements. Journal of Communication, 22, 353-374.

Ekman, Paul, and W. V. Friesen (1969). Nonverbal leakage and clues to deception. Psychiatry, 32, 88-195.

Frank, M.G., Hurley, C.M., Kang, S., Pazian, M., & Ekman, P. (2011). Detecting deception in high stakes situation: I. The face. Manuscript under review.

Haggard, E. A., & Isaacs, K. S. (1966). Micro-momentary facial expressions as indicators of ego mechanisms in psychotherapy. In L. A. Gottschalk & A. H. Auerbach (Eds.), Methods of Research in Psychotherapy (pp. 154-165). New York: Appleton-Century-Crofts.

Frank, M. G. & Ekman, P. (1997). The Ability to Detect Deceit Generalizes Across Different Types of High-Stake Lies. Journal of Personality and Social Psychology, 72(6), 1429-1439.

Matsumoto, D., Hwang, H.S., Skinner, L., & Frank, M. G. (2011). Evaluating Truthfulness and Detecting Deception: New Tools to Aid Investigators. FBI Law Enforcement Bulletin, 80, 1-8.

DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129, 74-118.

Ekman, P. (1985). Telling lies: Clues to deceit in the marketplace, marriage, and politics. New York: Norton.