微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

不安のループ

 

社交不安障害(Social Anxiety Disorder)という精神疾患があります。社交不安障害とは、社交場面で否定的な評価を受けたり、他人に辱められることに強い不安を感じることを主な症状とする精神疾患のことを言います(Wikipediaより)。

 

社交不安障害の患者さんの認知構造についてこれまで様々な研究がなされており、ある仮説が提示されました。

 

仮説:社交不安障害の患者は、脅威を感じる刺激に対して無意識のうちに過剰に反応し、その後、その刺激から意識的に遠ざかる行動をとる。

 

この仮説を検証するために実験が行われました。検証の結果、社交不安障害の患者さんは仮説の通りの行動を取りました。一方、比較対象の一般的な実験参加者らは逆の行動を取りました。

 

仮説の行動がなぜ問題なのでしょうか。それは、不安のループが維持されることを意味するからです。例えば、社交不安障害の患者さんが話している相手の顔を見て、「眉が下がる」動きを目にしたとします。次の瞬間、患者さんは相手の顔から無意識に目をそらします。そして、そのままそらし続けます。

 

しかし「眉が下がる」という動きは、相手の「怒り」感情の反映=脅威の刺激の可能性もありますが、単純に物事を熟考しているだけの場合もあります。脅威の可能性のある刺激に対して無意識に反応してしまうため、相手の意図を正しく解釈出来ず、コミュニケーションのズレが補正されないままになってしまいます。

 

こうした行動が継続されることで、熟考を示す顔の動きまでも脅威と認知してしまい、そのループが続くため、一向に他者との交流に不安を感じ続ける、という症状が維持されてしまうのです。

 

どんな治療法があるのでしょうか。

相手の顔の動きが収まるまで視線をそらさせないトレーニングや表情筋の動きと感情との関係を正しく認識するための表情検知のトレーニング、そんなところしか今、パッとは思い浮かびませんが、医療の今は、どうなのでしょうか。

 

 

清水建二

参考文献

Philippot, P., Douilliez, C., Pham, T., Foisy, M.-L. & Kornreich, C. (2004). Facial expression decoding deficits in clinical populations with interpersonal relationship dysfunctions. In R. Riggio, & R.S. Feldman (Eds.), Application of Nonverbal Behavior. Lauwrence Erlbaum Associates.