微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

感情の履歴よそのままにー高齢者の顔の表情分析

 年輪のごとく顔に刻まれたしわやたるみが持ち主の人生を無言で語りかけてくれる、そんなお年寄りのお顔に私は魅かれます。

 

顔に刻まれるしわは、その持ち主が長年ある表情を多く示してきた痕跡なのですMalatesta, 1987)。ですので、目尻にくっきりとできたカラスの足あとなどを見つけると、何だか心が“ホッ”とします。「幸福」の履歴長期保持者、発見、と。

 

しかし、時に困ったことに遭遇します。初対面のお年寄りと話をしていると、お年寄りの表情が読みとりにくい感じることがあるのです。お年寄りの顔に刻まれたしわがその表情を読みとりにくくしてしまうようです。

 

これを裏付けてくれる研究があります。

 

ベルリン大学の研究者らは、若者が高齢者の表情をどの程度正確に認識できるかについて調査しました(Hess, 2012)。調査に協力してくれた大学生に、若者と高齢者それぞれの「悲しみ」「怒り」「幸福」「中立」表情を見て、その表情の種類及び表情の強さの程度を判断してもらいます。以下が調査の概要です(矢印は清水の解説です)。

 

 

高齢者の表情は、若者の表情と比べ…

 

 

 ①表情の強さの程度が実際よりも低く判定された。 

→例えば、お年寄りの表情が、凄く悲しんでいるのに、その悲しみの程度が低く見積もられたということです。

 

②「中立」表情が他の表情と誤認識される傾向があった。 

→何の感情も抱いていない「中立」表情が、しわやたるみの影響で他の表情に見えたということです。

 

 

 以上のようにお年寄りの表情を正しく読みとることは難しいようです。ただ一方で、年齢が近い者同士の表情は正しく認識されるという研究(Malatesta, 1987)もあり、表情にも方言のようなものがあるのではないかという可能性も提言されています(Elfenbein & Ambady, 2002)。

 

 もし表情に方言のようなものがあれば、それを学ぶことが出来る可能性が生じます。私は挑戦します。顔に宿した感情の履歴、そのままの形で向き合う方法を考えていきたいと思います。

 

 

清水建二

 

 

 

 参考文献

Elfenbein HA, Ambady N. (2002) On the universality and cultural specificity of emotional recognition: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 128, 203-235

Hess, U., Adams, R. B., Simard, A., Stevenson, M. T., & Kleck, R. E. (2012). Smiling and sad wrinkles: Age-related changes in the face and the perception of emotions and intentions. Journal of Experimental Social Psychology, 48, 1377-1380.

Malatesta CZ, Fiore MJ, and Messina J. (1987) Affect, Personality, and Facial Expressive Characteristics of Older Individuals. Psychology and Aging, 1, 64-69.

Malatesta CZ, Izard CE, Culver C, Nicolich M. (1987) Emotion communication skills in young, middle-aged, and older women. Psychology and Aging, 2, 193-203