微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

ウソ泣きか本当の涙か?

前に「愛想笑いと本当の笑い」について取り上げました。今回は、偽りの「悲しみ」表情と本当の「悲しみ」表情の違いについて考えていこうと思います。

 

 行方不明になっている家族(親族含む)を心配して、残された家族がテレビを通して「早く帰って来てほしい」「(誘拐されたかも知れない)家族を返して欲しい」と訴えている場面を皆さんも時々目にしたことがあるかも知れません。そうした場面がオーストラリア、カナダ、イギリス、アメリカから広く集められ、残された家族(親族含む)たちの悲痛の表情が研究者らによって分析されました。

 

これらの場面には、テレビインタビューに答えている「本人が家族の喪失に直接関わっている場合(主に本人が家族を殺害している場合)」と「本人は家族の喪失に全く関わっていない場合」の2パターンがあります。つまり前者の場合では、インタビューに答えている本人は家族喪失の事件に関わっていないふりをして、「偽り」の悲しみ表情をしていることになります。前者を「偽り」場面と呼び、後者を「真実」場面と呼びます。

 

分析の結果は以下の通りです(→は清水の解説です)。

 

 

インタビューに応じている時の「偽り」場面における表情は、「真実」場面における表情に比べ…

 

唇の両端(口角)が引き上げられる傾向にある。

→つまり、口元に「笑い」が生じる、ということです。口元から「笑い」が漏れ出す、と言った方が適切かもしれません。人を「ダマす喜び」という現象が起きるのです※。

 

唇の両端(口角)が引き下げられない傾向にある。

→私たちが本当に「悲しみ」を感じるとき、口角が下がり、逆U字と言いましょうか、への字のような唇の形が形成されます。この動きは意図的に作るのが難しいと言われています。

 

両まゆが引き上げられる傾向にある。

→本物の「悲しみ」表情の場合、両まゆの内側だけが引き上げられ、丁度、ハの字を描いたようなまゆの形になります。しかし、この動きを意図的に行おうとすると両まゆが垂直に引き上がってしまい、「驚き」表情のまゆになってしまいます。

 

 

 まとめますと、「悲しみ」を演技しようとしても、本当の「悲しみ」表情を意図的につくることは難しく、口元から「笑い」が漏れ出てしまう傾向にある、ということのようです。

 

本当の「悲しみ」表情とはどんな表情でしょうか?「なんとなくわかるんだけど…」とお思いの方もいらっしゃると思います。「悲しみ」表情の画像は次回更新時にご紹介したいと思います。

 

 

清水建二

 

 ※「ダマす喜び」という現象についてはご興味のある方は、P・エクマン著 工藤力訳編(1992)『暴かれる嘘―虚偽を見破る対人学』誠信書房のp70-73を参照してみて下さい。

 

参考文献

Leanne ten Brinke, Stephen Porter, Alysha Baker. “Darwin the detective: Observable facial muscle contractions reveal emotional high-stakes lies,” Evolution and Human Behavior 33 (2012): 411-416.