微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

笑顔の値段

 

 人と人とのコミュニケーションに欠かせない表情は、なんと言っても笑顔ですよね。笑顔で話しかけられるとこちらもつられて笑みがこぼれてきます。私はよくカフェを利用するのですが、その中でも得にスターバックスの店員さんの笑顔がステキに見えます。今日は、そんなサービス業に関わる人々の笑顔についてです。

 

 様々な研究から、店員さんの笑顔が、商品の売り上げに貢献し、顧客満足度を高め、チップの額を増加させていることが知られています。笑顔の質と量との関係を調査した実験では、サービスに対する顧客満足度は、笑顔の量より質に影響を受けることがわかりました。つまり、私たちは多くの「愛想笑い」より、回数は少なくても「真の笑顔」をしてくれる店員さんのサービスに高い満足を感じるようです。

 

 こうした笑顔に関する研究を見ても、私たちの日常的な感覚から考えても、笑顔、心からの笑顔を見せてくれる店員さんに心地よさを覚えるのは至極当然だと思われます。ですので、サービス業を営む経営者の方々が、笑顔での接客を従業員に求めることになるのは自然の成り行きです。

 

 それでは、笑顔を作ることは従業員にどのような影響を与えるのでしょうか?いくつかの研究によれば、感情を偽る、つまり「愛想笑い」をする従業員の方が、「真の笑顔」をする従業員より、感情的に消耗し、心理的負担が大きくなるそうです。仕事上で意図的に生み出す必要のある感情と、自分の真の感情が一致しないことが頻繁にあるサービス提供者は、公私問わず感情を持つことを止めてしまうという報告が多々あり、本当の感情が消えてしまう危険性が指摘されています。

 

 う~ん、難しい問題ですね。感情の発現に支障をきたした場合、それを強要した会社側に責任が生じるのでしょうか?お客さんが店員さんの「真の笑顔」を直感的に読み取れるということは、心理的に負担のかかる「愛想笑い」にどこまで意味があるのでしょうか?興味深い話題です。

 

 「真の笑顔」を表出する人を採用する→「愛想笑い」をつくる研修せずに済む→研修コスト削減→感情に嘘をつく必要があまりない職場→心理的負担軽減→心の病にかかる可能性が低下→労災支給率の低下→みんな「真の笑顔」になる

 

 そんな上手くは行きませんかね?よろしければ、3月1日掲載の「愛想笑いと本当の笑い」のテストをもう一度トライしてみて下さい。

 

 

 

 

 

清水建二

     

参考文献

T. Hening et al., “Are All Smiles Created Equal? How Emotional Contagion and Emotion Labor Affect Service Relationships,” Journal of Marketing 70 (2006): 58-73

P.K.Adelmann, “Emotional Labor as a Potential Source of Job Stress,” in Organizational Risk Factors for Job Stress, ed. S.L.Sauter and L.R. Murphy (Washington, DC: American Psychological Association, 1995), 371-81S.M.Kruml and D. Geddes, “Catching Fire Without Burning Out: Is There an Ideal Way to Perform Emotion Labor?” in Emotions in the Workplace: Research, Theory, and Practice, ed. N.M.Ashkannasy, C.E.J.Hartel, and W.J.Zerbe(Westport, CT: Quorum Book, 2000

Ashkanasy, Hartel, and Zerbe, eds., Emotions in the Workplace; D.Zapf,”Emotion Work and Psychological Well-Being. A Review of the Literature and Some Conceptual Cosiderations,” Human Resource Management Review 12 (2002): 237-68