微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

プロローグー微表情とは何か?

 

さて、唐突ですが、私が体験した微表情の実例をご紹介いたします。

 

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銀座にあるスターバックス、私はコーヒーの香りに包まれながら、何をどう話すか思考を巡らせていました。

  

流れてきたWhite Christmasに思考が遮られ、ふと顔を上げると、ある男性が視界に入ったのです。

  

私:「あの、小嶋さんですか?」

 

男性:「あ、はい、小嶋です。清水さんですか?」

 

私:「はい、はじめまして。微表情トレーナーの清水建二です。本日はよろしくお願いいたします。」

 

男性:「こちらこそ、どうぞよろしく。」

 

この男性、小嶋さんは、心理学を用いてビジネスのパフォーマンスを高めることを目的としたセミナーを定期的に開催しており、40代で株式会社を経営している方なのです。

 

ネット情報から小嶋さんの事業に興味を持った私は、微表情を小嶋さんのセミナーに取り入れてもらえないかと思い、1ヶ月程前にミーティングの場を設けさせて頂いたのです。そしてその日、私は初めて小嶋さんに会い、微表情がいかにビジネスを始めとしたあらゆる対面コミュニケーションに有効なのかを話しました。

 

小嶋さんは私の話に乗り気で、彼の姿勢はやや前屈みになり、手の平をこちらに向けて私の話を聞いていました。しかし、具体的なビジネスモデルの提案を話し始めた時、彼は、微笑を浮かべつつも一瞬だけ、小刻みに、唇の片側の端を持ち上げ、自身の言葉を発したのです。

  

小嶋:「(一瞬、非対称な微笑を浮かべながら)清水さんって本当に微表情が好きなんですね。」

 

私:「………はい。微表情好きですよ。」

 

小嶋:「すみません。お話を中断させてしまって。どうぞ続けて下さい。」

 

私:「本日はここまでにしておきましょうか。」

 

小嶋:「え?…そうしますか?私から一点ご提案があります。清水さんは大学に戻られて、もっと勉強して、日本の微表情の権威となられては如何でしょうか?現段階で微表情をビジネス化するのは困難かと思われます。もう少し、機が熟すのを待った方が良いと思います。」

 

そう言って、この男性は私との今後の展開はないという空気を漂わせながら、席を立ち去って行きました。

 

このミーティングの1ヶ月後、世界中に広がる微表情トレーナーのネットワークから私のところに連絡が入り、彼が私のビジネスモデルを盗もうとしていたことが発覚しました。そのビジネスモデルに著作権があったわけではないので、「盗む」というのは大げさな表現かも知れません。しかし彼は、口では「微表情はビジネスにならない。」と言っておきながら、私が実行しようとしていたことを自らが行おうとしていたのです。幸い、私は核心となる情報を開示していなかったため、彼に私の重要な情報源を奪われることはありませんでした。

  

 私が彼の顔に一瞬見たものは、「軽蔑」だったのです。「軽蔑」とは、他者に対する優越感を含む感情で、表情としては、唇の片側の端(口角)が持ち上がる状態として表れます。彼は、私がビジネスプランを提案している、まさにその時、私を見下し、そのモデルを横取りしようと思っていたのでしょう。

 

 

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 微表情とは、フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情のことを言います。微表情には、「幸福」「軽蔑」「嫌悪」「怒り」「悲しみ」「恐怖」「驚き」の7種類があり、文化や人種、時代を問わず万国に共通して私たちの顔に表れます。この基本的7つの表情は、言葉どころか、思想、イデオロギーの壁も超えて、全ての人類が共通して持っているコミュニケーション・ツールなのです。そしてその「思い」は、全て顔に書いてあるのです。

 

                                                  

                                                                                                      清水建二

 

参考文献

P・エクマン/W・フリーセン著工藤力訳編(1987)『表情分析入門』誠信書