微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

面接テクニック・シーズン1-②IIE面接テクニックの前提

 

 前回から、IIEテクニック、すなわち法の執行及び国家安全のための対人評価テクニック(The Improving Interpersonal Evaluations for Law Enforcement and National Security technique)を紹介しております。前回は前提①を紹介しました。本日は前提②と③をご紹介いたします。

 

前提②:得られた証言内容だけでなく、そのように証言された理由を知ること

 

 前提②は、被面接者が何を信じているかだけでなく、なぜそう信じているかを知ること、です。面接をする者は正確な情報を得るために、被面接者の認知プロセスについて理解することが重要です。被面接者がどのように情報を得て、どのようにその情報が加工され得るか、ということを知ることによって、なぜ被面接者がある情報を真実だと思っているのかを理解することが出来ます。またそのプロセスの中で、被面接者の証言が正確であるかについての手掛かりを得ることが出来る可能性もあります。

 

 交通事故の目撃証言を例にしましょう。面接中に面接をする者が「車と車が『激突した』ときの出来事について話して欲しい」と被面接者に質問するとします。「激突した」という言葉遣いがなされることによって、被面接者は車のスピードについて自分が目撃したよりも早く見積もって証言してしまう可能性が生じてしまいます。これは面接者の言葉の使い方が被面接者の持っている情報を加工させてしまう典型例です。被面接者の思い込みなどによっても情報の加工は行われます。前提②を満たすには、認知心理学の知見などから、私たちの物事の認識傾向を知っておく必要があります。

 

前提③:被面接者は不正確な情報を提供している可能性に注意すること

 

 前提③は、前提②にも被りますが、被面接者は不正確な情報を提供している可能性に注意すること、です。不正確かも知れない情報は、被面接者が信念について述べているときや記憶違いをしているとき、偽りの記憶を持っているときに形成され得ますが、ウソをつくときにももたらされます。ウソは「事前にダマすという通告を与えずに、相手に誤認識を意図的に与える行為(Ekman, 1985/2001)」と定義されます。つまりウソというものは、ウソつきによって、真実の情報が意識的に偽装され、歪曲され、隠される現象を意味します。

 前提③を満たすには先と同様、認知心理学の知見やウソという現象について知見を深めたり、被面接者の信念について理解する必要があります。

 

 なお、目撃証言に関する認知的傾向については、越智啓太・桐生正幸(編)『テキスト司法・犯罪心理学』北大路書房(2017)の特に第二十二章「目撃証言」がオススメです。証言者が陥りやすい認知的な傾向についてわかりやすくまとめられています。

 

 以上のように、IIEテクニックは、被面接者が信じていることをなぜそのように信じているかを考えながら、ときにそれが不正確かも知れない、という前提を置きながら、進めていきます。次回、いよいよ面接の構造について紹介していきたいと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Frank, M. G., Yarbrough, J. D., & Ekman, P. (2006). Investigative interviewing and the detection of deception. In T. Williamson (Eds.), Investigative interviewing: Rights, research and regulation (pp. 229-255). Cullompton, Devon: Willan.

越智啓太・桐生正幸(編)『テキスト司法・犯罪心理学』北大路書房(2017)

 

テキスト 司法・犯罪心理学

テキスト 司法・犯罪心理学

  • 作者: 越智啓太,桐生正幸,渡邉和美,白川部舞,中村有紀子,大渕憲一,大上渉,平伸二,奥田剛士,岩見広一,喜入暁,川邉讓,萩野谷俊平,横井幸久,園田寿,西田公昭,玉木悠太,高村茂,財津亘,羽生和紀,島田貴仁,山本直宏,廣田昭久,新岡陽光,仲真紀子,甲斐恵利奈,小城英子,岡本英生,松本昇,藤野京子,細江達郎,渡辺光咲,藤田政博,太田達也,綿村英一郎
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2017/07/24
  • メディア: 単行本
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面接テクニック・シーズン1-①IIE面接テクニックとは?

 

本日は面接テクニックについてご紹介したいと思います。面接などの人を介した情報収集を適切に行うには、微表情を含むボディーランゲージの観察や戦略的な質問法、話の聞き方である傾聴法といった個別スキルの向上を目指すことは言うまでもありません。しかし、情報収集の構造(全体像・流れ)を知ることで、それぞれの個別スキルが有機的に結び付けられている様子を理解することが出来、より効果的に情報収集が可能になります。

 

面接テクニックは、尋問、取り調べ、目撃証言の取得、被害者に対する面接、諜報活動のための対人コミュニケーション、スパイ活動防止に関する面接、採用面接など、様々な用途に応じて様々な種類が存在しています。今シーズンのブログでは、上記の様々な面接シーンに適応可能なIIEテクニックと呼ばれる面接テクニックを紹介したいと思います。

 

IIEテクニックとは、法の執行及び国家安全のための対人評価テクニック(The Improving Interpersonal Evaluations for Law Enforcement and National Security technique)の略語です。IIEは、実際の取り調べの観察と科学的な行動分析とが統合されて生み出されたテクニックです。G. Frankら(2006)の記述に沿って紹介・説明したいと思います。

 

IIE面接の構造の説明に入る前に、IIEテクニックが置いている3つの前提を紹介します。

 

前提①:面接の目的とは真実を見つけること

 

「面接の目的とは真実を見つけること」これが第一の前提です。ここでいう「真実」とは、「面接を受けている人が信じていること」のことを言います。面接を受けている人が、例え、事実と違うことを話していても、その人が本当にそう信じているならば、それを真実と考えます。

 

この前提を置く(遵守する)ことで面接の目的が「自白を得ること」から「真実を得ること」にシフトします(尋問などの面接の目的は往々にして「自白を得ること」になりがちです)このことによって、面接を受けている人へ自白を迫ることがなくなり、ウソの自白が起こる可能性が減ります。また面接者を「証言内容について価値判断を下す」立場から「情報を得る」立場に変えます。このことによって、面接から得られた情報と物的証拠や他の証言とを慎重に比較する態度が生まれ、新たな調査項目が見つけ出されたり、真実に到達出来る可能性が高まるのです。

 

気になる続き、前提②以降はまた次回。

 

 

清水建二

参考文献

Frank, M. G., Yarbrough, J. D., & Ekman, P. (2006). Investigative interviewing and the detection of deception. In T. Williamson (Eds.), Investigative interviewing: Rights, research and regulation (pp. 229-255). Cullompton, Devon: Willan.

困り顔をする犬と適応の話

 

一時期、困り顔という表情が流行りましたよね。困ったように見える表情の作り方やメイクの手法がメディアなどで紹介されていました。困り顔、もとい困り表情の平均的な表情を具体的に記述すると、

 

眉の内側が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる+下唇が引き上げられる+唇が上下からプレスされる、

 

というふうになります。鏡に向かって自分でこの表情を作ると、ハノ字眉が目立ち、眉間と唇にやや力が入っている様子がわかると思います。

 

眉の内側が引き上げらる動きは悲しみ感情を、眉が中央に引き寄せられる動きは熟考を、下唇が引き上げられる+唇がプレスされる動きは悲しみ・感情抑制・熟考を意味します。この表情を言語化するならば、

 

私、助けを求めています。どうやってこの苦境から抜け出せられるか考えています。でも、この想い、上手く口に出して表現出来ません。

 

こんなところになるでしょう。

 

表情には周りの人に特定の行動を仕向ける機能があります。笑顔を見れば、私たちはその人に近づきます。怒り顔を見れば、私たちはその人から遠ざかります。困り顔を見れば…私たちはその人を助けたくなるのです。

 

つまり、困り顔をすることで、他者から庇護を与えてもらえる可能性を高めることが出来るのです。この、ある表情がある行動を誘発させるという関係が、犬と人との間にもあることが知られています。

 

犬の保護施設にケージに入れられた様々な犬がいます。その犬に研究者が近づきます。そうすると、犬たちは(人間で言うところの)眉の内側を引き上げ、ハノ字眉を見せたり、しっぽを振ったりします。各犬毎にその動きの頻度と継続時間を計測しておきます。そしてそれらの数値とこの施設の犬たちが新たな飼い主を見つける日数とが比べられます。

 

すると、眉の内側を引き上げる頻度が高い犬ほど、早く新しい飼い主を見つけられることがわかりました。また意外なことに、しっぽをどれくらい振るかについては飼い主を見つける日数とはあまり強い関係がないことがわかりました。

 

困り犬顔を向けられた私たちは、その犬を助けたくなってしまう、と考えられるわけです。

 

この研究の根底には進化や適応の話があります。実は、オオカミがどのように人間に飼いならされるようになったかについてはよく知られていません。

 

牙をむき出しにし怒り顔で人間と戦っているよりも、困り顔を「見せ」(たまたま困り顔になったのか、意図的か、本当に困っていたのかはわかりません)、人間に飼ってもらった方が、オオカミは自己の生存確率を上げ、遺伝子を残すことに成功したのかも知れない、そんなふうに考えられています。

 

ただ、現代の犬たちが意図的に困り顔を私たちに見せ、私たちの行動を変えようと考えているのかはわかりません。ドリトル先生に聞くか、バウリンガル進化版の開発を待ちましょう。

 

 

清水建二

参考文献

Waller BM, Peirce K, Caeiro CC, Scheider L, Burrows AM, McCune S, et al. (2013) Paedomorphic Facial Expressions Give Dogs a Selective Advantage. PLoS ONE8(12): e82686. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0082686

微表情・しぐさから相手の心理を見抜く「情報収集テクニック研修」~微表情・動作観察と戦略的質問を駆使した正確な他者理解の方法~

 

2017113日(金・祝)10:00-16:30の日時に「情報収集テクニック研修」を開催させて頂きます。開催場所は東京です。詳しくは次のURLをご覧下さい。

 

http://nego.jp/ana_topics/3119/

 

内容は、なんと一日で!微表情・動作観察法と戦略的質問法の魅力を堪能し、実践的なテクニックを学んで頂く研修となっております。

 

研修では、「交渉」をキーワードに、観察法と質問法をどのように・なぜ駆使し、双方にとって満足のいく交渉結果を導き出せばよいのかについて学んで頂きます。

 

具体的には、

 

1.表情と会話のシグナルを学ぶ

2.動作を学ぶ

3.観察法と質問法を駆使して情報を収集する

4.観察法と質問法からウソを見抜く

 

の4本柱でお送りさせて頂きます。

 

「表情と会話のシグナルを学ぶ」では、感情の現れである表情と会話のときに生じる顔の動きとの違いや感情抑制の結果生じてしまう微表情について様々な動画やロールプレイングを通じて理解を深めて頂きます。

 

「動作を学ぶ」では、ボディーランゲージのみから収集できる情報をご紹介します。

 

「観察法と質問法を駆使して情報を収集する」では、表情・動作を観ながら、どんな質問をすれば、円滑なコミュニケーションを成立させることが出来るのかについて、具体的な交渉ケースを題材にロールプレイングをして頂きます。

 

「観察法と質問法からウソを見抜く」では、観察法に加え、戦略的な質問をすることでウソ検知という高度情報収集を可能にする手法をご紹介します。また簡単なワークを用いて、戦略的な質問法の使い方を体感して頂きます。

 

空気研のセミナー・研修の雰囲気やテクニックに興味のある方、これまで空気研の講座を受講された方で今一度その内容を復習されたい方、社員研修などに空気研のコンテンツ導入を検討されてる方、などなど、オススメの研修です。

 

空気研の公開セミナー・研修は年に数えるほどしか実施しておりませんので是非、この機会に。

 

 

清水建二

 

表情に込められた適応の軌跡―嫌悪表情解説編

 

本日は前回の問題の解説編です。それでは、結論から。

 

1 鼻にしわが寄せられる

➡あ 酸っぱいものあるいは苦いものを食べる

➡う 腐敗した食物のにおいを嗅ぐ

 

2 アゴが下げられ、舌が出される

➡い スプーン半分のコショウを口に含む

 

3 上唇が引き上げられる

➡え 強制収容所での残忍な様子が収められた写真を観る

➡お 親友が近親婚をする

➡か 怒りと軽蔑を感じる

 

ご自分の選択とどれくらい一致していましたでしょうか?

 

なぜ上記のような様々な状況で微妙な嫌悪表情の違いが生じるのでしょうか?

 

1の鼻にしわが寄せられる表情は、不快なにおいを遮断する機能を持っています。この表情してみて下さい。鼻の穴が狭まり、匂いを感じにくくなると思います。2のアゴが下げられ、舌が出される表情は、有害なモノを吐き出す機能を持っています。人類共通に有害なものではなくても、個人的に嫌いなものを口に含んでもこうした表情になりますよね。3の上唇が引き上げられる表情は、道徳違反を排除する機能を持っています。道徳違反を目にすると、嫌悪だけでなく、怒りや軽蔑も引き起こされますよね。上唇が引き上げられることによって、歯が露出し、攻撃のシグナルを生じさせることが出来ます。

 

私たちの表情筋はこのような機能を備えて、私たちのサバイバルを助けてくれているのです。各々の表情筋には適応の軌跡が刻まれているのです。

 

 

清水建二

参考文献

Rozin Paul, Lowery Laura, and Ebert Rhonda, “Varieties of disgust faces and the structure of disgust,” Journal of Personality and Social Psychology, 1994, 66(5): 870–881.

表情に込められた適応の軌跡―嫌悪表情問題編

 

感情は私たちが環境に適応して生きていくために必要なシステムです。感情と表情筋との動きに焦点を当てると、感情は表情筋の動きを通じてそのシステムを駆動させます。本日は嫌悪感情―表情について、具体的にこのシステムについてみていこうと思います。

 

最初に問題を考えて頂こうと思います。A群の表情とB群の状況とを結びつけてみて下さい。なお一つの表情に複数の状況が当てはまる場合があります。またA群の表情は全て嫌悪に関わる表情です。

 

A群 表情

1 鼻にしわが寄せられる

2 アゴが下げられ、舌が出される

3 上唇が引き上げられる

 

B郡 状況

あ 酸っぱいものあるいは苦いものを食べる

い スプーン半分のコショウを口に含む

う 腐敗した食物のにおいを嗅ぐ

え 強制収容所での残忍な様子が収められた写真を観る

お 親友が近親婚をする

か 怒りと軽蔑を感じる

 

いかがでしょうか?

ヒントとしては、B群の状況をカテゴリー分けして考えるとわかりやすいかも知れません。

解説は次回させて頂こうと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Rozin Paul, Lowery Laura, and Ebert Rhonda, “Varieties of disgust faces and the structure of disgust,” Journal of Personality and Social Psychology, 1994, 66(5): 870–881.

 

声×表情分析から考えるこれからのコミュニケーション研究

 

あるネットの記事がきっかけで、山崎広子(著)『8割の人は自分の声が嫌い』角川新書(2014)の存在を知り、読ませて頂きました。

 

著者の山崎さんは相手の声を聴くだけで、身長・体重・年齢・顔の形などがわかるそうで、表情分析から相手の感情やホンネを推測する仕事をしている私にとって、人物推定に関連する記述はもの凄く興味魅かれる内容で、声について勉強したくなりました。

 

さらに声の状態から(機器を使えば)病気の有無もわかるという記述もありました。これについては異なるソースから私は知っていましたが、改めて声情報の大切さに目を向ける必要を感じました。

 

こうした声単体の話もとても面白いのですが、さらに私の興味が引かれた記述があります。それは、声と表情との関連性です。本書によれば、目を閉じたり、眉をひそめるとピッチが下がり、眉を上げ目を見開けば、明るい声が生じ、瞬きが多いと音声が不安定になる…etc

 

また、声マネをするタレントさんについて、声道の状態を模して共鳴を似せるため表情も似てくるそうです。

 

声と表情との掛け合い、と形容しましょうか、コミュニケーション・チャンネルの相互性について示唆に富んだ記述だと思わせて頂きました。

 

さて、本書を読ませて頂いていてもそうですが、日頃の業務をしていて、最近、特に思うことがあります。それは、

 

これからのコミュニケーション研究は、単体の学問領域を超えた研究・考察が必要である

 

ということです。

 

科学研究の性質上、変数を絞ってある効果を引き起こす要因を特定することの重要性は了解しています。だからこそ、言葉だけ、声だけ、表情だけ、動作だけ、触り方だけ、服装だけ、匂いだけという一つの変数が引き起こすコミュニケーション効果が研究されているのでしょう。

 

しかし、ある程度、特定の変数の効果が見えてきたらその知見をより使える生活知にするために、こうした純粋な基礎科学の枠を超えた複数の変数、複数の領域にまたがる学際的な研究が必要だと考えます。

 

なぜなら、コミュニケーションが行われる現実の場において、一つの変数のみが動いているわけではなく、様々な変数が相互にプラスにもマイナスにも影響し合いながら、うごめいているからです。日常の中に埋め込まれたコミュニケーション・シグナル(サイン含む)としての位置づけから研究が進められる必要があると考えます。

 

コミュニケーション・シグナルは、言語と非言語とに分かれます。非言語は、

 

①表情や身体動作、姿勢を扱うキネシクス

②外観と装飾

③音調

④接触

⑤時間と空間

 

の5種類に分かれます。私たちは、日常の中でこうした非言語を、言語に乗せながら、意識・無意識的に利用しながら他者とコミュニケーションを行います。

 

こうした要素の相互関係をどのように理解し、現実のコミュニケーションに活用できる知にしたらよいか、私が日々考え続けている問いなのです。

 

 

清水建二

参考文献

 

 

追記:

こちらも読ませて頂きました。内容はほぼ同じです。先の書籍を読んだ後の復習に良いかも知れません。ラジオ講座の教科書のようです。

 

こころをよむ 人生を変える「声」の力― (NHKシリーズ)

こころをよむ 人生を変える「声」の力― (NHKシリーズ)