微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

子どもが恥ずかしがるのはいつから?

 

子どもが「恥ずかしがる」とはどういうことでしょうか?恥ずかしいという感情、つまり、羞恥や恥という感情を抱くのはいつ頃からで、そうした感情を抱けるということは何を意味しているのでしょうか?

 

Lewis(1989)らの研究によれば、子どもが恥ずかしさを感じ始めるのは、2~3歳頃からと考えられています。そしてその感情は、子どもが自分と他者・社会との関係を意識し始めるからこそ生じるものだとしています。

 

Lewis(1989)らによる興味深い研究があります。平均生後22ヶ月の子どもの鼻にこっそりと口紅を塗ります。そしてその子どもたちに鏡を見せ、自分の鼻についた口紅を拭き取ろうとするかどうかを観察します。そうした行動が出来る子どもは、自分の身体というものがわかっており、客観的に自分のことを認識出来ている、自己意識があるとみなされます。

 

この口紅テストをクリアした子どもたち(鏡の自分ではなく自分の鼻についた口紅を直に拭き取ろうとした子ども)とクリアできなかった子どもたちにわけ、様々な場面に直面するそれぞれの子どもたちの反応を比較します。その場面とは、見知らぬ人と対面する場面、自分を鏡で見てもらう場面、褒められる場面、踊ってもらうように頼まれる場面です。

 

それぞれの場面での子どもの反応にどのような違いが観られたでしょうか?

 

見知らぬ人と対面する場面では、両者の子どもに反応の違いはなく、両者の子どもとも恐れを抱く傾向にあることがわかりました。この、見知らぬ人=怖いもの、という図式は自己意識がある・なし関わらず自動的に感じられてくる原始的な感情であることがわかります。

 

しかしその他の場面では、口紅テストをクリアした子どもの方が、そうでない子どもに比べて、恥ずかしがる傾向にあることがわかりました。つまり、自己意識が成立しているからこそ、恥ずかしいという感情を抱くのだと考えられるのです。

 

恥ずかしさ以外にも、誇り、罪悪感などの感情も2~3歳くらいの間に発達すると考えられています。

 

みなさんの周りのお子さんは、いつ頃から恥ずかしがりますか?1歳半や2歳の早い時期に恥ずかしがる様子を見せていたら、すでに「自分を持っている」「社会の中の自分を意識出来ている」早熟なお子さんなのかも知れません。

 

(私に子どもが出来たら、1歳半以降、毎日子どもの鼻に口紅を塗って観察してみよう。)

 

 

清水建二

参考文献

本ブログで紹介した研究はもともとはLewis(1989)らの研究ですが、記事作成にあたり、遠藤(著)「発達における情動と認知の絡み」p.15-16高橋・谷口(編)『感情と心理学』北大樹書房(2002)の記述を参考にさせて頂きました。本記事の内容に関して詳細を知りたい方は以下の文献を参照下さい。

感情と心理学―発達・生理・認知・社会・臨床の接点と新展開

感情と心理学―発達・生理・認知・社会・臨床の接点と新展開

 

 

旅行者と非旅行者をどう見分けるか?-解答編


前回のブログをまだお読みになっていない方は、是非お読みください。お読み頂いた方が、本ブログ読後の納得感が違うと思います。

 

では、改めまして。以下に保安員とあなたの会話を展開します。保安員の質問に真実条件とウソ条件でそれぞれ答えてみて下さい。全ての質問に回答後、回答をそれぞれの条件間で比べてみて下さい。

 

それではスタート。

 

あなたが入国審査を受けるための列に並んでいると、一人の空港職員があなたに声をかけてきました。


保安員:こんにちは。今日は風が強いですね。飛行機での移動はどうでしたか?
あなた:(     )。
保安員:そうですか。それは○○でしたね。私は空港の保安職員です。保安検査のために少しお時間を下さい。いくつか質問をさせて頂きますので、あなたのことについて教えて下さい。
あなた:はい。
保安員:最終学歴について教えて下さい。
あなた:(     )。
保安員:その学校の先生の名前を教えて下さい。
あなた:(     )。
保安員:ありがとうございます。パスポートを拝見させて下さい。(パスポートを見ながら)色々なところに旅行に行っているんですね。
あなた:はい。
保安員:滞在時どこに行かれますか?
あなた:(     )。
保安員:そこは空港からどのくらい時間がかかりますか?
あなた:(     )。
保安員:そこに行くための交通手段を教えて下さい。
あなた:(     )。
保安員:そうすると、そんなに遠くないですね。次の質問です。あなたのご職業は何ですか?
あなた:(     )。
保安員:本社はどこですか?
あなた:(     )。
保安員:社長はどなたですか?
あなた:(     )。
保安員:わかりました。これで質問は終わりです。ありがとうございました。どうぞ入国審査にお進みください。


いかがでしたでしょうか?ウソ条件で真実条件と同じように回答することは難しかったと思います。保安員の質問ロジックや質問例を具体的にここで説明することは避けますが、端的に説明すれば、普通、空港で質問されるとは考えられないものの、真実ならば答えるのが難しくない時間・空間・関係者に関わる質問をしています。そして回答の真実性は、ウソの言語・非言語サインや一般的な旅行者の行動パターンとの乖離・逸脱度合い…等々を考慮しながら推定していきます。

 

真実条件に関しては全ての質問におそらく簡単に答えられたと思いますが、ウソ条件だと上記の質問に対する答えを用意していなかったと思われます。

 

本物の空港の入国審査の列に犯罪者役の実験参加者を紛れ込ませて、そこに勤務する保安員がその犯罪者役を見抜けるか否かを調査した研究によると、非言語観察トレーニングしか受けていない保安員に比べ、上記の質問法+言語観察法のトレーニングも受けた保安員の方が、犯罪者役を見抜く精度が高かったことがわかっています。具体的な検知率としては、66%です。それほど高い数値だとは思えないかも知れませんが、これは犯罪者役の実験参加者のモチベーションと本物の犯罪者のモチベーションに起因するところがあると思います。本当の犯罪者ならばウソがばれることによって失うものが大きいので、この検知率はさらに高くなると予想されます。

 

ウソ検知の科学は、非言語だけ、言語だけ、質問法だけ、という単体ではなく、統合型へと、科学者及び実務家の検討が日々重ねられながら、進歩しています。今後も最新のウソ検知の科学をレポートさせて頂きたいと思います。

 


清水建二
参考文献
Ormerod TC, Dando CJ. Finding a needle in a haystack: Toward a psychologically informed method for aviation security screening. Journal of Experimental Psychology: General. 2015; 144(1):76.

旅行者と非旅行者をどう見分けるか?-問題編

 

空港で行われる保安検査において、普通の旅行者と非旅行者(不法入国者やテロリストなどの犯罪者)とを見分けるために様々な手法が各国、各空港で実施されています。

 

代表的なものに微表情やボディーランゲージなどの非言語観察を用いた検査法があります。しかし非言語観察法を保安検査に頼るべきかどうかについてはその妥当性に関して議論が割れています。

 

保安検査の非言語観察法とは、保安員が入国審査を待つ人々にランダムに近づき、もしくは不安そうな表情や動作をしている人に近づき、入国の目的など様々な質問をし、ウソと関連の深い非言語行動を取っているか否かを観察し、回答者をパスさせるか、さらなる検査のために個室に移すか(第二次スクリーニング)を判断する方法です。

 

この方法の中に微表情検知も取り入れられており、一定の効果を上げているのは確かなのですが、エラーが多すぎるという問題が指摘されています。例えば、恐怖の微表情やネガティブなボディーランゲージから犯罪者を検知できることもあるのですが、何でもない普通の旅行者まで第二次スクリーニングに移してしまうケースが多々起きているのです。

 

ある国に入国しようとする99%以上の人々は普通の旅行者や母国に帰国するだけなのですが、そのうちの何%かは様々な理由―待ち合わせ時間に間に合うか?トイレに行きたい!保安員に疑われているのが怖い!!ーで感情に起伏を生じさせてしまう人もいます。それを保安員は犯罪者やウソのサインと誤判断してしまうのです。

 

そうした誤判断を減らし、適確に旅行者(母国帰国者なども含む)と非旅行者を見分けるために、非言語観察法だけでなく、戦略的な質問法及び言語観察法を混ぜたスクリーニング法が検討されました。ある実験の結果、ある種の混合手法は非言語観察法のみよりも正確な判断が出来ることがわかりました。

 

この混合手法とは?ということですが、その手法を紹介する前に、ぜひブログの読者の方に体感して頂きたいことがあります。

 

真実条件とウソ条件を設定しました。ご自身がその立場になったとしてちょっと想像してみて下さい。なおウソ条件をリアル犯罪者設定にすると話が…なので、変えます(それでも犯罪者なのですが…)。以下、ちょっと考えてみて下さい。

 

真実条件:飛行機を交通手段として利用した旅行の実際の体験を頭に描いて下さい。そして目的地の空港に着いたときのことを思い出して下さい。その記憶を頼りにこれから入国審査を受けて頂きます。

 

ウソ条件:あなたはフードファイターです。どの国の大食い選手権に出場しても必ず優勝してしまうため、あなたは全世界の大食い選手権に出入り禁止となっています。しかし、大食いへの情熱を止めることが出来ずに、ついに整形手術までして、新しい身分と偽造パスポートを手に、アメリカのロサンゼルスで開催される大食い選手権に出場することにしました。ウソの身分を設定し、単なる旅行者として振る舞う準備をして下さい。入国審査やその前の段階で何が起きるかわかりません。ウソの身分と旅行者としての振る舞いを出来るだけリアルに設定して下さい。さてアメリカに降り立ったあなたは、これから入国審査を受けて頂きます。

 

真実条件とウソ条件を頭に描いて下さい。次回のブログにおいて保安員のスクリーニング検査を受けて頂きます。保安員の質問に答えて頂きます。特にウソ条件のとき、どれだけその質問に答えられるか、答えられないかが、体感して頂きたいことになります。それぞれの条件においてどんな違いが生じるか、それぞれの条件をクリアに描けば描くほど実感して頂けると思います。それでは次回お楽しみに。

 

 

清水建二

安倍首相を応援したくなる微表情

 

この動画を観ていると安倍首相を応援したくなります。

 

 

これまでの大統領とは一癖も二癖もあるビジネスマン出身のトランプ大統領。彼とどんな政治を繰り広げるのか?どんな戦略で交渉カードを出し入れするのか?

 

より良き日本の実現を、より良き世界の均衡を、期待しています。


追伸:首相は英語をどのくらい勉強する、と言うのか、使うもの何ですかね?

 

清水建二

愉快、納得、未知、感傷的、ひらめきの表情発見…か?

 

万国共通の7表情と準万国共通の11表情というものがあります。万国共通の表情、つまり、ある感情を抱くと、いつでも、どこでも、誰にでも、同じ表情筋の動きが伴われてその感情が顔に発現するという現象のことです。

 

ダーウィン以降の150年にわたる表情研究により、現在では、幸福・軽蔑・嫌悪・怒り・悲しみ・恐怖・驚きという7つの表情が全ての人の顔に同じように表れることがわかっています。とりわけ、生まれてから一度も目の見えたことがない盲目の方々も私たちと同じ表情をするという観察研究もあり、注目に値します。

 

さて、この7表情以外の万国共通の表情を探る研究が進められており、羞恥、恥、罪悪感、畏れ、誇り…などが研究されています。現在、11の表情がおそらく万国共通なのではないかと考えられています。

 

そのような中、2016年に発表された最新の研究で愉快、納得、未知、感傷的、ひらめきの表情とはどういうものか?という探索的な研究がなされ、新たな万国共通な表情の可能性が模索されています。

 

愉快、納得、未知、感傷的、ひらめき感情が喚起されるような映像が注意深く選ばれ、それを実験参加者に観てもらいます。各々の映像を観ている実験参加者の表情の動きが計測されます。その結果、それぞれの表情について以下の動きが顕著に観察されました。

 

愉快…頬が引き上げられる+口角が引き上げられる

➡いわゆる「ドゥシェンヌ・スマイル」というものです。満面の笑み、という表現の方がわかりやすいでしょうか。愉快表情は、万国共通の幸福表情と同じようです。

 

納得…眉の外側が引き上げられる+まぶたが上に引き上げられる

未知…眉の外側が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる+まぶたが上に引き上げられる

➡「眉が引き上げられる」「まぶたが上に引き上げられる」という動きは情報検索に関わる顔の動きです。納得と未知の表情に共通しています。両者の表情の違いは、「眉が中央に引き寄せられる動き」が顕著か否かということのようです。「眉が中央に引き寄せられる」とは熟考を意味します。納得した場合、もう熟考状態から解放されているため、この動きがないのだと思います。一方、未知の場合、自分の知らない情報が目下、伝えられている状態で既知に移行する前の段階です。既知に向かうプロセスにおいて「眉が中央に引き寄せられる動き」という熟考シグナルが表れるのだと思われます。

 

感傷的…眉の内側が引き上げられる+口角が引き上げられる+唇が口の中に巻き込まれる

➡「眉の内側が引き上げられる」は悲しみに関連する動きで、後者2つの動きは併せて、スマイルコントロールです。なぜスマイルが起きたのか?コントロールされる必要があるのかは謎です。

 

ひらめき…眉が中央に引き寄せられる+口角が引き上げられる+唇が上下に離れる+まぶたが閉じられる

➡普通の驚きとは全然違う表情ですね。なぜこのような表情になるのでしょうか?色々理由付け出来なくもないのですが、総体的に言って謎です。

 

いかがでしょうか?何となくそんな表情するかも、と言った感じでしょうか。

果たしてこれらの表情は万国共通表情のリスト入りするのか・否か!!

今後の研究蓄積を待ちたいと思います。

 

 

清水建二

参考文献

McDuff. Discovering facial expressions for states of amused, persuaded, informed, sentimental and inspired. ICMI 2016 Proceedings of the 18th ACM International Conference on Multimodal Interaction. Pages 71-75.Tokyo, Japan November 12 - 16, 2016. ACM New York, NY, USA ©2016. table of contents ISBN: 978-1-4503-4556-9 doi>10.1145/2993148.2993192.

清水建二の本棚②

 

今回ご紹介したい書籍は、こちらです。 

 年末に私の本棚に仲間入りをしました。

 

私は、著者の長谷川先生の授業を早稲田時代に何講座も受講していたり、先生の書籍をほとんど全て読ませて頂いております。一種のファン?ですかね。科学の世界の面白さ、ワクワク、ゾクゾクする世界を教えてくれたのは、大学入学後は長谷川先生の授業が初めてでした。

 

もう一人の著者、山岸先生の研究も私は大好きです。論文や書籍を読ませて頂く度に、私の常識はいつもひっくり返されます。一種の畏怖の念を向けている先生の一人です。

 

さて、そんな両先生の対談なのですから、面白くないわけがありません。現在日本が抱えている様々な社会問題をどう捉えたらよいのか、どう解決に導けばよいのか、ということに対して核となる議論を交わされています(詳しくは、是非、書籍をお読み下さい)。

 

数十年間、変わらぬその態度に敬意を抱く想いです。

 

しかし、私が会社を経営するようになって以来、科学的議論の在り方に少し疑問を感じ始めていることもここで告白せねばなりません。

 

論理的に考えたら、効率を重視したら、確かにそうだ、と思う一方で、そうは言ってもそうはならない事情があるのだな、ということです。

 

「この状況・環境をこう変えれば、問題は解決される。」と科学的議論は進行します。しかし、実際のビジネスや政治では、「そうするには、多くの人の想い・意図を動かさなくてはいけない。」となります。平たく言えば、頭で実行することと行動に移すことには雲泥の差があることがある、ということなのです。

 

この頭(科学)と行動(ビジネス)との大きな差を埋めること、埋める取り組みを論理的かつ実際に実行されてている人・組織は、日本にはほとんどないのではないかと思うわけです。

 

日本は、科学者とビジネスマンとの距離が遠すぎるように思います。

 

科学者はビジネスをしませんし、ビジネスマンは科学をしません(稀、と言った方が正確でしょうか。また自然科学はこの言説に当てはまらないことが多いと思います)。

 

お互いがお互いのことをもっと知り、お互いの活動の中に身を置けば、現状よりもさらに!さらに!!有意義な社会問題の解決策が生まれると思うのです。

 

「わかっちゃいるけど、やめられない。」という生の声をどう科学的に、論理的に扱えるのだろうかと。

 

「論理的帰結はこうです。」という声をどう膨大な経験則と活動に裏付けられた実績は扱えるのだろうかと。

 

科学者×科学者の対談、私は大好きですよ。もちろん。でも、一流の科学者×一流のビジネスマンの本気の対談を聞きたい、読みたい、単なる意見交換ではなく、本気の行動変革・組織変革につながるような対話が聞きたい、読みたい、私はそう思うわけです。

 

そうした想いの端緒が、空気研の活動であり、私の著作だと信じています。

 

最後に私の専門に寄せたお話しを。非言語コミュニケーション研究者×ビジネスマン(法の執行官なども含む)のコラボ書籍を紹介させて下さい。

Nonverbal Communication: Science and Applications

Nonverbal Communication: Science and Applications

 

 日本でもこんな書籍が生まれて欲しい、いつの日かこうした書籍の執筆者の一人として名を連ねたいと思っています。

 

 

清水建二

 

お知らせ

「表情・しぐさ分析総合コース」4月開講のお申し込みを開始しました。

 

http://peatix.com/event/236594/view

 

ご興味・ご都合のつく方、是非、どうぞお越し下さいませ。6人限定の少人数で蜜な学びをして頂けると思います。

 

性犯罪被害を進んで証言する子どもと証言を躊躇する子どもの表情の違い

 

子どもが性犯罪の被害者になる場合、難しいのがその証言の精度を得ることです。子どもの話は、出来事の意味を正しく把握できていないために被害の描写が曖昧になったり、記憶違いが起きたり、場合によってはファンタジーやウソが含まれることがあります。また、子どもから被害の状況を聞き取る捜査官が、有益な情報を得るために、誘導的な質問をしてしまう問題もあります。

 

そこで子どもの証言の精度を推定するために様々な手法が考案されています。例えば、Statement Validity Assessment (SVA)という面接法では、証言の論理性、突飛な詳細情報、加害者の心の状態の言及、証言の訂正などの指標をスコア化し、証言の精度を客観的に判断しています(SVA面接法及びその信頼性について詳しくは、Vrij, 2005を参照下さい)。

 

SVAのように言語的側面から子どもの証言の精度を推定しようとするアプローチが主流ですが、子どもの言語的側面の弱点を補うために非言語的側面からアプローチしようとする動きもあります。その一つが、証言中の子どもの表情を観察する手法です。

 

Bonanno(2002)らの研究によると、自身の性被害を積極的に話そうとする子どもとなかなか話そうとしない子どもの表情には違いがあると言います。この研究によりわかったことは次の通りです。

 

自身の性被害の開示について、積極的な子どもは嫌悪の表情を表わす傾向にある、消極的な子どもは恥の表情を表わす傾向にある。

自身の性被害を消極的に話す子は、性被害を受けていない子に比べ、社会的な笑い(=いわゆる、礼儀のための作り笑い)が多い傾向にある。

 

本研究の知見から私が注目したい表情は、消極的な子どもの表情、すなわち、恥表情と社会的笑いです。恥表情は、うつむき、場合によっては口に力が入る顔の動きとして表れます。これは一見、ウソをついているように思われる恐れがあります。恥感情の機能は、自己像の維持です。恥を感じている間というのは、自分というものを保とうと必死な状況なのです。また、社会的笑いも、「なぜネガティブな出来事を話しているのに笑っているのだろう?これはウソなのでは?」という誤解を捜査官に与えてしまいかねません。ウソだと思われてしまえば、自己の被害の開示に消極的な子どもの被害実態が隠蔽されたままになる危険性があります。

 

またSVAは子どもから言語的な証言が得られることを前提としているため、消極的な子どもの場合、そもそも証言の精度をはかるためのスコア化すら難しくなる可能性があります。

 

しかし、消極的な子どもにこうした表情が表れる傾向にあることを知っておけば、証言をウソと誤判断する危険性を減らすことができるでき、SVA以外の面談法を考えることも出来ます。

 

言語と非言語アプローチとが相互補完的な面談法のさらなる活用法・発展が望まれます。

 

 

清水建二

参考文献

Bonanno, G. A., Keltner, D., Noll, J. G., Putnam, F. W., Trickett, P., LeJeune, J., & Anderson, C. (2002). When the face reveals what words do not: Facial expressions of emotion, smiling, and the willingness to disclose childhood sexual abuse. Journal of Personality and Social Psychology, 83, 94–110.

Vrij, Aldert (2005) Criteria-based content analysis: a qualitative review of the first 37 studies. Psychology, Public Policy, and Law, 11 (1). pp. 3-41. ISSN 1076-8971 10.1037/1076-8971.11.1.3