微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

表情分析官への準備と習慣

 

表情分析の手法をマスターし、社会へ還元するために、準備すべきこと、習慣とすべきことがあります。

 

これから書かせて頂く文章は、プロの表情分析官になりたい方向けのアドバイスです。瞬間・直観的に表情を読み、日常・ビジネスコミュニケーションに活かしたいと思われる方は、弊社のセミナーや研修、コースで十分です。あくまでもプロと名乗るならば、教える立場になりたいならば、必要になることを本日はアドバイスさせて頂きたいと思います。

 

・準備すべきこと

①TOEIC900点以上の英語力を習得すること

➡最新の学術知見は英語の論文で発表されます。また論文以外でも表情分析の良書で日本語に翻訳されていないものも多数あります。さらに②のFACS習得にも英語力は必要です。表情分析のプロになるには英語力は必須です。TOEIC900点あれば、それほど苦労せずに英文が読めるでしょう。

 

②認定FACSコーダーになる、もしくはそれに準ずる表情分析手法を習得すること

➡客観的に顔の動きを分析するには、学術的な分析手法をマスターする必要があります。近年は自動的に顔の動きを計測してくれるソフトウェアがありますが、統計ソフトと同様に、機械が何をしてくれているのかを一度、自分の目と頭で理解しておく必要があります。「理解する」というのは、少なくともFACSで言うならば、「認定FACSコーダーになる」ということを意味しています。

 

③学士レベルの心理学の知識を習得し、修士レベルの専門知識を習得すること

➡FACSは顔の動きを計測するマニュアルですが、心の動きについて教えてくれるわけではありません。FACSで分析した顔の動きに意味を与え、心の動きを解釈するためには心理学の知見やさらに専門的な知見を合わせて考える必要があります。

 

ここまでが準備。言わば、表情分析官になるための必要条件です。例えば、弊社空気を読むを科学する研究所で表情分析官として働く、認定講師になるということを希望される方には、上記3つの保持を最低条件としています(もちろん、営業、広告や情報分析官の任ならば話は別です)。

 

そして準備が整った後は、表情分析のスキルをさらに高めるために、日々の行動が大切となります。

 

・習慣とすべきこと

①論文と書籍を読むこと

➡表情分析官を辞めるそのときまで、表情分析に関わる論文や書籍、また人の心の動きに関して役に立つと考えられる論文・書籍を読み続けることです。時事ニュースや小説だって役に立ちます。特に学術知見は日進月歩なので、既存の知識がまだ有効なのか有効でなくなってしまったのか、適宜、モニタリングする必要があります。

 

②表情分析し、仮説を立て、検証すること

➡ニュース映像などで適宜、人物の表情を分析し、自分なりの解釈をし、仮説を立てます。しばらくすると事件ならばその結果が明らかになります。自分の仮説は正しかったか、もし間違っていたら何が原因か、検証します。

 

③意識的に人と話すこと

➡②のリアル版です。「この人」「この場面」と決めて、対面で話しながら話し相手の表情を観察します。自分の仮説が正しいか、なるべくその場で確かめるか、仮説を覚えていて、後日確かめる、違う情報源から確かめることです。

 

表情分析に興味のある方でもここまで読まれた方は大変だと思われましたか?そうですね、決して、楽ではありませんね。私も準備段階を整えるのに何年もかかりました。しかし、表情分析は人の表情から情報を引き出す技術です。非言語情報を言語情報に翻訳する技術です。翻訳家になるのですから、一朝一夕にはいかないのです。日々、鍛錬。日々、訓練。そんな世界です。熱意と努力で一歩一歩進んで下さい。ゴールはありません。しかし、自分の歩んだ道のりは決して消えません。

 

そして表情分析を極めたいと思われるならば、弊社のコースや研修(主にエキスパートコース)を受講することが近道だと思われますが(日本の大学では専門コースがないため)、様々な事情で弊社のサービスを受けられない方に、弊社の『表情分析エキスパートコース』で課題図書としている書籍を紹介します。

 

APA Handbook of Nonverbal Communication (Apa Handbooks in Psychology)

APA Handbook of Nonverbal Communication (Apa Handbooks in Psychology)

  • 作者: David Matsumoto,Hyisung C. Hwang,Mark G. Frank
  • 出版社/メーカー: Amer Psychological Assn
  • 発売日: 2015/09/14
  • メディア: ハードカバー
  • この商品を含むブログを見る
 

 

本書の表情に関わる部分を熟読すれば、表情分析の最新知識の大枠、すなわち、これまでわかっていること・まだわかっていないことを知ることができます。

 

 

清水建二

バタフライ・エフェクト

 

忘年会でした。

 

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英国風だったか、ビートルズだったか、オシャレな曲が流れ、鼻に抜ける風味が特徴的な熟成肉とコクのある赤ワインが美味しいお店でした(にしても、凄い店名!アバンギャルドが口グセだったあの教授、今、何しているかな〜😌)。

 

小さく一口サイズの熟成肉の大きさと彩り豊かな食事が女性に人気のゆえか、若い方々、特に若い女性で賑やかなお店の中、一年の労をねぎらいつつ、未来の抱負を語り合えた忘年会でした。

 

感謝や敬意という想いこそが人と人を結びつける核感情なのだろうと感じた夜でした。

 

 

清水建二

 

 

ジェスチャークイズ(認識編)

 

 ジェスチャーとは、日本語では「しぐさ」と訳され、専門用語では「エンブレム」と言われます。ジェスチャーの基本的な機能は、言葉の代替です。言葉を使わなくても、あるジェスチャーをすれば、意味を伝達し合うことが出来ます。ただしジェスチャーは表情とは異なり、生まれ持って私たちが持っているシグナルではなく、学習によって身に付けられるものであるため、文化によって様々な意味・種類があります。

 

そんな文化的に多様性を持つジェスチャーですが、世界の大部分の人に認識されている(自分がそのジェスチャーをする・しないは問わず、見れば意味がわかる)、もしくは世界の大部分の人が実際に使用しているジャスチャーがあることが大規模な調査からわかっています。

 

本日のブログでは認識編ということで、自身がする・しない問わず、見ればおおよそ検討のつく代表的なジェスチャーを取り挙げてみました。

 

ジェスチャーの意味を当ててみましょう。下記の表を見ながら実際にジェスチャーをし、ジェスチャーの意味を推測してみて下さい。パブリックな場で一人でやってると変な人だと思われるますので、周りに誰もいないときにトライされることをオススメいたします。

 

それではスタート!

 

問題:ジェスチャーの動きからその意味を推測しなさい。

ジェスチャーの意味

ジェスチャーの使用地域

ジェスチャーの動き

実験参加者のジェスチャー認識率

アメリカ

手を広げ、手のひらを上に向け、4本の指を自分の方へ向かって繰り返し動かす。

100%

ラテン

右手の人差し指と小指を伸ばし、他の指は親指の下に丸める。角のような形になる。その状態で手のひらの方を額につける。

100%

アメリカ

拳を握り、親指を立てる。

100%

アメリカ

中指を人差し指に交差させ、他の指は親指の下に丸める。

100%

南アジア

手を上げ、手のひらを下にし、4本の指を自分の方へ向かって繰り返し動かす。

96%

中東

指を広げ、まるで頭の横に大きなノブがあるつもりで何度か回す。

96%

ラテン

十字を身体の前で切る。そのとき指先はペンを持つような形にし、垂直、水平の順で真っ直ぐに線を引く。

97%

ラテン

片方の手を上げ、手の平は下に向ける。その状態で手首を回転させる。親指と小指が交互に上下になる。

95%

出典:Matsumoto, D., & Hwang, H. S. (2012)を参考に著者作成

 

それでは正解を発表します。

正解は…

 

①来て、②悪魔、③良い、④幸運、⑤来て、⑥バカ、⑦神の加護、⑧多かれ少なかれ

 

どうですか?ジェスチャーの動きからどれくらい正確に意味が特定出来ましたか?この表に挙げたジェスチャー以外にも世界の多くの人々がその動きの意味を理解しているジェスチャーがまだまだあります。

 

世界の人々の認識率が高いジェスチャーを知りたい方は、下記の論文を読まれるか、来春4月開講の「表情・しぐさ総合分析コース」をご受講下さい。講座の中で、上記の表の完全版を配布致します。

 

 

清水建二

参考文献

Matsumoto, D., & Hwang, H. S. (2012). Cultural similarities and differences in

emblematic gestures. Journal of Nonverbal Behavior.

 

嘘発見器のウソ・ホント

 

嘘発見器

 

一度ならずともこの機器について耳にしたことがあると思います。身体にいくつかの器具が取り付けられ、すべての質問に「いいえ」で答え、ウソをついていたら「いいえ」と回答した瞬間に嘘発見器が反応する、という機器です。

 

よく刑事ドラマやバラエティー番組などで見られる光景ですが、これは正確な描写ではありません。そこで本日は嘘発見器のウソ・ホントをご紹介したいと思います。

 

嘘発見器の名称は、正しくはポリグラフ検査機と言います。大切なこととして、このポリグラフ検査器が出来ることは、ウソを直接発見することではなく記憶の有無を発見するということです。どのようにポリグラフ検査機が用いられているか順を追ってみてみましょう。

 

例えば、会社の金庫が工具を使って壊され、現金が盗まれた事件があったとします。「どこから」「どうやって」「いくら」「いつ」盗まれたかは犯人と警察、それにポリグラフ検査を実施する科学捜査研究所の技師しかわからないとします。ポリグラフを実施する技師は次のような質問をします。例えば、

 

現金は…

①財布から盗まれましたと思いますか。

②机の中から盗まれたと思いますか。

③ロッカーの中から盗まれたと思いますか。

④金庫から盗まれたと思いますか。

⑤駐車場の車の中から盗まれたと思いますか。

 

同じ要領で、犯行に使われた道具について、盗まれた現金の額について、犯行時間について、質問していきます。このように犯人にしか知り得ない質問を何問もしていき、全て「いいえ」と容疑者に答えてもらいます。

 

もし質問番号④の問いに対して容疑者が「いいえ」と答えたとき、ポリグラフが反応し、また、さらに続く質問に対しても犯人しか知り得ない「質問番号」に容疑者が何度も反応したら、その容疑者は犯人しか知り得ない犯行に関する「記憶」を持っているということになります。偶然では考えられないレベルでこうした反応が見られるとき、容疑者が事件に関与している可能性が高いと判断します。

 

ポリグラフ検査機はこのように犯行記憶に関する生体反応をキャッチしているのです。ですので、ちなみに容疑者が「はい」と答えようが、「いいえ」と答えようが、何も答えないでいようが、犯行時の記憶があれば、生体反応は出てきます。

 

そんなポリグラフ検査機ですが、その精度はどうなのでしょうか。

ポリグラフ検査機を用いたウソ検知率は…

 

ウソをウソと正しく識別出来た割合は、76%

潔白を潔白と正しく識別出来た割合は、94%

 

です。このウソ検知率はかなり高いです。質問事項を増やせば増やすほど検知率を向上させることが出来ることがわかっています。

 

※脳波を計測する機械(EEG-P300)を使ってこの質問法をするとウソ検知率は80~90%に向上することが様々な研究からわかっています。

 

 

清水建二

参考文献

Elaad, E., Ginton,A., & Jungman, N. (1992). Detection measures in real-life criminal guilty knowledge tests. Journal of Applied Psychology, 77, 757-767.

中国人と日本人と韓国人、どう見分ける?

 

中国人と日本人と韓国人の違いを顔から見分けられますか?

 

何となく…という感じだと思います。

日本人はわかるけど、中国人と韓国人の違いは…?

という方もいるかも知れません。

 

ちょっとやってみましょう。

下の図の顔写真から中国人、日本人、韓国人を分けてみて下さい。

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(Y. Wangら, 2016より)

 

いかがでしょうか?かなり難しいですね。順番を並べ変えるといかがでしょうか?上段、中段、下段で民族が区分けされています(答えは一番最後に記載してあります)。さきほどよりは何となく傾向があるような気がしませんか?

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(Y. Wangら, 2016より)

 

Twitterから集められた、数千枚の中国人、日本人、韓国人の顔写真をコンピューターに深層学習させた結果、75.03%の精度でコンピュータはそれぞれの民族を区別することに成功しました。

 

ちなみに偶然正解する確率は、33.33%です。何の訓練も積んでいない私たちの正解率は38.89%ということがわかっています。これらの数字から考えると、コンピューター凄いですね。

 

コンピュータが見出したそれぞれの民族の違いとは何なのでしょうか?それは…

 

①日本人、韓国人、中国人の順番で前髪が額にかかっている。

②日本人、韓国人、中国人の順番で笑顔である(笑顔で写真に写っている)。

③日本人、韓国人、中国人の順番で涙袋が目立つ。

ゲジゲジ眉毛が中国人に目立つ。

⑤韓国人、中国人、日本人の順番で髪が黒い。

 

①⑤とそれに④はどうにでもなりそうですよね。ファッションとか流行なのでしょうか。②は文化的な影響のような気がします。この中では③が唯一、形状的な違いなのだと思われます。

 

個人的には②③の特徴に興味を惹かれます。将来、他にどんなことがわかるようになるのでしょうかね?研究の進歩を追っていこうと思います。楽しみです。

 

問題の答え

上段:中国人

中段:日本人

下段:韓国人

当たっていましたか?

 

 

清水建二

参考文

Y.Wang, H. Liao, Y. Feng, X. Xu, and J. Luo. Do they all look the same? deciphering chinese, Japanese and koreans by fine-grained deep learning. arXiv preprint arXiv:1610.01854, 2016.

清水建二の本棚①

 

私には友人や知人の家やオフィスにお邪魔する機会があると必ずしてしまうことがあります。それは、本棚をみる、ということです。本棚の中をみると、その人の思考がどのように構成されているかについて、その一端がわかるような気がするからです。

 

人様の本棚の中を覗いて一方的に想いを巡らしているのも、なんか不公平な感じがしますので、私、清水建二の本棚もご紹介しようと思います。

 

基本的に私の本棚は心理学や非言語コミュニケーション系の書籍、論文で埋め尽くされているのですが、本シリーズでは本棚の中から適当に選んだ書籍を心理学に限らず一言コメントの形を通じてご紹介したいと思います。

 

一冊一冊の書籍が私の脳を作り上げてくれています。

 

本日ご紹介する書籍はこの2冊です。

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

  • 作者: フィリップ・ヒューストン,マイケル・フロイド,スーザン・カルニセロ,ピーター・ロマリー,ドン・テナント
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: Kindle
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交渉に使えるCIA流 嘘を見抜くテクニック

交渉に使えるCIA流 嘘を見抜くテクニック

 
 

 

この書籍の素晴らしい点は、言葉のやりとりのプロセスが割と長めに記載されているところです。テクニックを紹介する書籍の大部分は、理論などの解説ばかりでそれをどう使うか、どう使われるのかが具体的に説明されていません。しかし、本書はウソを見抜くテクニックの解説だけでなく、実際の場面でどう使われるかについて生の言葉のやり取りを通じて説明してくれています。

 

残念なところは、2つあります。本当に肝心な「ウソを見抜くその瞬間」のような部分を意図的かどうかわかりませんが、省いてしまっているところが散見されます。もう一つは微表情については否定的な見解を取っているところです。

 

注意すべきところは、1つあります。それは、ウソを見抜くテクニックに関して科学的に妥当性が保証されているものとされていないものが混在しているところです。ただどのテクニックも著者のCIAのエージェントが長年様々な現場で用いて効果を発揮した方法のようですので、科学的には解明されていなくても効果的な方法なのかも知れません。

 

科学的に解明されているウソを見抜くテクニックをお知りになりたい方は、次の書籍がオススメです。

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

 

日本語で入手できる最新かつ最高峰のウソ検知に関する心理学が解説されています。著者のヴレイ教授はウソ検知研究の権威で、示唆に富んだ多くの研究を世に輩出されています。ただ本書は専門家向けの書籍かつボリュームがかなりあるため読むのが大変です。またハウツー的に解説されているわけではないため、実用するには自分なりの工夫が必要です。 この書籍に書かれていることと先の2冊を照らし合わせれば良いかも知れません。

 

それではまた次回。

 

 

清水建二